【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
束の間の平和
ほとんど心の準備もできないままメーレフ公爵との面会を終えて、ライザはどっと疲れた気持ちで帰宅した。
公爵は、癒し手として働いていたライザのことをよく覚えていてくれて、イグナートとの婚約を心から祝福してくれた。もちろん養子縁組をすることも快諾してくれて、あっという間に書類まで整えられた。
突然のことで迷惑をかけて申し訳ない気持ちはあったものの、それなら今度は双子を連れて遊びに来てほしいと公爵は笑顔で提案してくれた。
書類上、ライザはもうアントノーヴァ家の者ではなく、メーレフ家を名乗ることになっている。親との縁を切ることがこんなにあっさり完了してしまって、ライザは少しだけ拍子抜けしたような気持ちになっていた。もっともそれは、イグナートや公爵の力添えがあってのことなのだけど。
玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、足元に小さな衝撃を二つ続けて感じた。もちろんそれは、帰りを待ちわびていた双子たちだ。
「ママ、おかえりなさい!」
「おとーしゃん、だっこ!」
飛びついてきたアーラを抱き上げると、隣ではイグナートがパーヴェルを抱っこしていた。
「ママ、きらきらの、してきたでしょ? みせて!」
「え、きらきら?」
アーラに話しかけられて、ライザは首をかしげた。
「そう、きらきらのゆびわ! おとーしゃんが、ママにどうぞしたでしょ」
「あぁ、指輪のことね。ふふ、これよ。すごく素敵でしょう?」
「うわぁ……!」
ライザが左手につけた指輪を見せると、アーラは目を輝かせた。最近、きらきらしたものが大好きなアーラは、ライザが指輪を買いに行っていると聞いて楽しみにしていたらしい。
「すてきねぇ、きらきら、きれいねぇ」
うっとりとした表情で指輪を見つめるアーラに気づいて、パーヴェルも見せて!とやってくる。
「かわいいねぇ。ママ、おひめさまだねぇ」
お姫様みたいだと褒めてくれるパーヴェルの言葉に、ライザも思わず喜んでしまう。
だけど、子供たちにお土産を買いそびれたことを思い出して、ライザは内心で申し訳ない気持ちになった。カフェで焼き菓子を買って帰るつもりだったのが、両親と再会したことですっかり忘れてしまっていた。
お留守番をしてくれていたのに悪いことをしたなぁと考えていると、イグナートの大きな手がアーラの頭を優しく撫でた。
「アーラとパーヴェルにも、お土産があるぞ」
「おみやげ!」
「おかし?」
「あっちの部屋でゆっくり見よう」
ぱぁっと顔を輝かせた双子たちに笑いかけて、イグナートは歩き出す。お土産を購入する時間なんてあっただろうかと思いつつ、ライザもアーラを抱っこしたまま彼のあとを追った。
ソファに腰を下ろしたイグナートは、アーラとパーヴェルを手招きする。わくわくした表情で近づいてきた双子を膝の上に乗せると、懐から小さな箱を二つ取り出した。箱の蓋には、ライザの指輪を購入した宝飾店のロゴが見える。
「こっちがアーラの。そしてこっちがパーヴェルのだ」
「わぁ……!」
嬉しそうに箱を手に取った二人は、中を確認してぱぁっと明るい表情になった。
「きらきら!」
頬を紅潮させてアーラが喜ぶのを見て、イグナートも嬉しそうにうなずいた。チュールリボンにたくさんのビジューが飾られた髪飾りは、きらきらしたものやお姫様に憧れるアーラにとって、最高に嬉しいお土産だったようだ。
「ママ、つけて! きらきらつけて!」
ぴょんぴょん弾みながらねだるアーラの髪に、ライザがリボンを飾ってやる。侍女がさりげなく差し出した手鏡を確認するアーラの横顔は、もう一人前のレディだ。
「ママ、パーヴェルのみて! これ!」
今度はこっちだと言わんばかりに袖を引かれて、ライザはパーヴェルの方に向き直った。襟元に飾られたラペルピンを見せるように、大きく胸を張るのが可愛らしい。そこには、パーヴェルの瞳を思わせる緑色の石が、きらきらと輝いていた。
「おとーしゃんと、おじーちゃまといっしょよ」
得意げな表情で、パーヴェルがラペルピンを撫でる。イグナートがいつも胸に着けているものや、リガロフ伯爵の騎士団副長時代の写真を見て、パーヴェルは徽章に憧れがあったらしい。同じようなものを胸に着けられるのが、嬉しくてたまらないのだろう。
「いつの間に、購入していたの……?」
喜ぶ我が子たちを満足そうな目で見つめるイグナートに、ライザはこっそりと尋ねる。イグナートはにんまりとした笑みを浮かべて、ライザの耳元に顔を寄せた。
「前に、指輪の下見に行った時に、目をつけてたんだ。ライザにもネックレスを買ってあるから、あとで着けてみせて」
「えっ私も?」
「子供たちだけに買って、最愛の婚約者に何も贈らないわけがないだろう」
「指輪も買ってもらったのに……」
「今まで何もできなかった分、色々としたいんだよ。俺の自己満足につきあってくれたら嬉しい」
そう言ってさりげなく手を握られ、ライザは跳ねた鼓動を誤魔化すように黙ってうなずいた。
公爵は、癒し手として働いていたライザのことをよく覚えていてくれて、イグナートとの婚約を心から祝福してくれた。もちろん養子縁組をすることも快諾してくれて、あっという間に書類まで整えられた。
突然のことで迷惑をかけて申し訳ない気持ちはあったものの、それなら今度は双子を連れて遊びに来てほしいと公爵は笑顔で提案してくれた。
書類上、ライザはもうアントノーヴァ家の者ではなく、メーレフ家を名乗ることになっている。親との縁を切ることがこんなにあっさり完了してしまって、ライザは少しだけ拍子抜けしたような気持ちになっていた。もっともそれは、イグナートや公爵の力添えがあってのことなのだけど。
玄関ホールに足を踏み入れた瞬間、足元に小さな衝撃を二つ続けて感じた。もちろんそれは、帰りを待ちわびていた双子たちだ。
「ママ、おかえりなさい!」
「おとーしゃん、だっこ!」
飛びついてきたアーラを抱き上げると、隣ではイグナートがパーヴェルを抱っこしていた。
「ママ、きらきらの、してきたでしょ? みせて!」
「え、きらきら?」
アーラに話しかけられて、ライザは首をかしげた。
「そう、きらきらのゆびわ! おとーしゃんが、ママにどうぞしたでしょ」
「あぁ、指輪のことね。ふふ、これよ。すごく素敵でしょう?」
「うわぁ……!」
ライザが左手につけた指輪を見せると、アーラは目を輝かせた。最近、きらきらしたものが大好きなアーラは、ライザが指輪を買いに行っていると聞いて楽しみにしていたらしい。
「すてきねぇ、きらきら、きれいねぇ」
うっとりとした表情で指輪を見つめるアーラに気づいて、パーヴェルも見せて!とやってくる。
「かわいいねぇ。ママ、おひめさまだねぇ」
お姫様みたいだと褒めてくれるパーヴェルの言葉に、ライザも思わず喜んでしまう。
だけど、子供たちにお土産を買いそびれたことを思い出して、ライザは内心で申し訳ない気持ちになった。カフェで焼き菓子を買って帰るつもりだったのが、両親と再会したことですっかり忘れてしまっていた。
お留守番をしてくれていたのに悪いことをしたなぁと考えていると、イグナートの大きな手がアーラの頭を優しく撫でた。
「アーラとパーヴェルにも、お土産があるぞ」
「おみやげ!」
「おかし?」
「あっちの部屋でゆっくり見よう」
ぱぁっと顔を輝かせた双子たちに笑いかけて、イグナートは歩き出す。お土産を購入する時間なんてあっただろうかと思いつつ、ライザもアーラを抱っこしたまま彼のあとを追った。
ソファに腰を下ろしたイグナートは、アーラとパーヴェルを手招きする。わくわくした表情で近づいてきた双子を膝の上に乗せると、懐から小さな箱を二つ取り出した。箱の蓋には、ライザの指輪を購入した宝飾店のロゴが見える。
「こっちがアーラの。そしてこっちがパーヴェルのだ」
「わぁ……!」
嬉しそうに箱を手に取った二人は、中を確認してぱぁっと明るい表情になった。
「きらきら!」
頬を紅潮させてアーラが喜ぶのを見て、イグナートも嬉しそうにうなずいた。チュールリボンにたくさんのビジューが飾られた髪飾りは、きらきらしたものやお姫様に憧れるアーラにとって、最高に嬉しいお土産だったようだ。
「ママ、つけて! きらきらつけて!」
ぴょんぴょん弾みながらねだるアーラの髪に、ライザがリボンを飾ってやる。侍女がさりげなく差し出した手鏡を確認するアーラの横顔は、もう一人前のレディだ。
「ママ、パーヴェルのみて! これ!」
今度はこっちだと言わんばかりに袖を引かれて、ライザはパーヴェルの方に向き直った。襟元に飾られたラペルピンを見せるように、大きく胸を張るのが可愛らしい。そこには、パーヴェルの瞳を思わせる緑色の石が、きらきらと輝いていた。
「おとーしゃんと、おじーちゃまといっしょよ」
得意げな表情で、パーヴェルがラペルピンを撫でる。イグナートがいつも胸に着けているものや、リガロフ伯爵の騎士団副長時代の写真を見て、パーヴェルは徽章に憧れがあったらしい。同じようなものを胸に着けられるのが、嬉しくてたまらないのだろう。
「いつの間に、購入していたの……?」
喜ぶ我が子たちを満足そうな目で見つめるイグナートに、ライザはこっそりと尋ねる。イグナートはにんまりとした笑みを浮かべて、ライザの耳元に顔を寄せた。
「前に、指輪の下見に行った時に、目をつけてたんだ。ライザにもネックレスを買ってあるから、あとで着けてみせて」
「えっ私も?」
「子供たちだけに買って、最愛の婚約者に何も贈らないわけがないだろう」
「指輪も買ってもらったのに……」
「今まで何もできなかった分、色々としたいんだよ。俺の自己満足につきあってくれたら嬉しい」
そう言ってさりげなく手を握られ、ライザは跳ねた鼓動を誤魔化すように黙ってうなずいた。