【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

決別

 四阿を出たところで、イグナートが迎えに来た。彼の顔を見るだけで、こわばっていた身体が少しだけ緩むような気がする。

「アントノーヴァ伯爵夫妻が来られた。子供たちは、母と一緒に離れにいる。だから、心配ない」

「うん。ありがとう」

 イグナートの気遣いに感謝して、ライザは微かに笑みを浮かべた。自分は何を言われても構わないが、子供たちには絶対会わせたくないと思っていたのだ。双子にとって血のつながった祖父であることは分かっているが、彼がライザの子供たちを大切にしてくれるとは考えられない。

「わたくしは、ここで引き続きお茶をいただきながら待っているわね。必要があれば、いつでも呼んでちょうだい」

 そう言ってヴェーラは手を振って見送ってくれた。

 

 話しあいの場には、リガロフ伯爵も当主として同席してくれることになっている。だが主な話は当事者であるイグナートに任せるようだ。それでも、自分はライザの味方だし、何かあれば援護するとこっそり耳打ちしてくれた。

 応接室には、すでに両親がソファに座って待っていた。

 父親は小刻みに脚を揺すり、手の爪を噛んでいる。その顔色は悪く、どこか追い詰められた表情に見える。

 義母は綺麗に着飾っているものの、髪はほつれ、肌が荒れているのか化粧のりも悪い。

 そして、その隣には細身な少年が座っていた。陽に当たらない生活をしているのか、顔色は不健康なほど白い。神経質そうな顔をした彼は、弟のグラシムだろう。記憶の中よりも大人びているが、面影がある。

「お待たせしました」

 イグナートが声をかけると、両親は揃って顔を上げた。グラシムは、自分には関係ないとでもいうように、床に視線を落としたまま動かない。

 ライザとイグナートの顔を交互に見て、父親は眉間に皺を寄せた。

「何度も言うようだが、ライザの結婚を認めるつもりはない。この子には、すでに別の縁談が決まってるからな」

「こちらも先日申し上げましたが、我々は最初から、結婚の許可を求めておりませんよ」

 向かいのソファに腰を下ろしたイグナートが、まるで威圧するように身を乗り出す。父親は一瞬たじろいだが、負けていられないといった様子で首を横に振ってライザに視線を向けた。

「ライザ、我儘を言っていないで帰ってきなさい。おまえには、いい縁談の話がきているんだ。貴族として家のために尽くすのは当然のことだし、ぜひにと望まれるのは光栄なことだぞ」

「そうよ、ライザ。コヴァレー男爵を知ってるでしょう? あの有名なコヴァレー商会を手がけている方で、とってもお金持ちの方なのよ。そんな方が、ライザを望んでくださっているのよ」

 口々に言われて、ライザはぐっと唇を噛むと顔を上げた。
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