【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています
二人で迎える朝
再び目覚めた時は、夜明けだった。喉が痛くて声が出ないし、全身が怠くてたまらない。
仕事に行く前に強めの回復薬を一気飲みしなければと考えつつ、ライザはふらつく身体をそっと起こした。すると、隣で眠っていたイグナートも目覚めたのか身体を起こした。
「ライザ、まだ早い。もう少し寝て体力を回復しておかないと今日一日もたないぞ」
「……誰のせいだと思ってるのよ」
苦笑しつつ、ライザは寝乱れた髪を手櫛で整える。
「シャワーを浴びてくるわ。昨晩は何も食べてないし、早めの朝食にしましょう」
浴室へ行こうと立ち上がったら、イグナートがライザの手首を掴んだ。ぐいっと引き寄せられてそのまま彼の腕の中に戻る。
「あの石鹸は、だめだ」
「え?」
「こんなおいしそうな匂いをさせてたら、食べられてしまう」
「あなたは散々食べておいて、そんなことを言うのね」
おかしくなって小さく笑うと、イグナートが抱きしめる腕に力を込めた。
「俺はいいんだよ」
「朝にシャワーを浴びる時は、香料の控えめな石鹸を使うことにしてるから大丈夫よ。あまり強い香りを纏っていると、調合の邪魔になるから」
「……それなら、いい」
納得したのか、イグナートが手を離す。やはりあの石鹸を使うのは、イグナートと過ごす夜だけにしようと決めて、ライザは浴室へと向かった。
シャワーを浴びると気分もすっきりして、身も心も目覚めたようだ。
鏡に映るライザの肌には、胸元を中心に赤い痕が散っていた。鎖骨付近につけられた痕は、やはり制服のボタンを全て留めないと見えてしまう。
これが本当にライザに執着している証なら嬉しいのだけど、彼は他の騎士たちにセフレを奪われたくないだけなのだ。
ため息をついて、ライザは制服を着ると胸元のボタンをしっかりと上まで留めた。
リビングに戻ると、イグナートがテーブルの上に食事の用意をしてくれていた。昨晩彼がテイクアウトしてきた食事を、温め直してくれたようだ。
「俺もシャワーを浴びてきていい?」
「もちろんよ。その間に、コーヒーを淹れておくわ」
「砂糖は三つで頼む」
「知ってる」
ライザは笑って浴室に向かうイグナートにうなずいてみせた。
意外と甘党な彼は、コーヒーをブラックで飲むのを苦手としている。仕事中は苦みで目が冴えるからと砂糖を入れずに飲んでいるようだが、ライザと一緒の時は甘さたっぷりのものを好むのだ。
豆から挽いたコーヒーを淹れ終わる頃、イグナートが戻ってきた。シャツを羽織っただけのその姿は、見事に割れた腹筋がちらちらと見え隠れして目に毒だ。濡れた金の髪からぽたりと雫が胸に滴り落ちるのも、なまめかしい。
うっとりと見惚れかけて、ライザは慌ててコーヒーカップに視線を戻した。真っ黒な水面に、少し動揺した自分の顔が映っている。
こうして二人で朝を迎えることは何度もあるのに、ライザはいつまでもそれに慣れない。
気怠げな空気を纏うイグナートを見れば、昨晩彼に激しく抱かれたことを思い出してしまうし、それに反応して身体がまた熱くなる。
仕事中は、イグナートとは何の関係もないといった顔をしなければならない。うっかり二人で過ごした夜のことを思い出して表情を変えることがあってはならないのだ。
心を落ち着かせようとコーヒーを飲もうとしたライザは、思った以上に多くの量を口に含んでしまった。淹れたてのコーヒーは熱く、舌先に鋭い痛みが走る。
「……っ」
「どうした?」
熱さに目を白黒させながらも、なんとか口に含んだ分を飲み込んで、ライザは涙目でイグナートを見上げる。
「火傷しちゃった」
ヒリヒリするとつぶやきながら舌を出してみせると、近づいてきたイグナートがそれに吸いついた。ちりっとした痛みを感じたが、それよりも深く絡められる舌に動揺してしまう。
「んぅ、ぁ……っ」
口の中に残っていたコーヒーの味を舐め取るかのように、イグナートの舌はライザの口内を動き回る。濃厚な口づけに腰が砕けそうになったころ、ようやく解放された。
「治った?」
「治る……わけ、ないじゃない」
息を荒げながらにらむように見上げると、イグナートは悪戯っぽい表情でライザの顔をのぞき込んだ。
「ほら、傷口は舐めるとよくなるっていうだろ。俺に治癒の力があったら、ライザの傷はいつだって舐めて治してやるのにな」
「治癒の力は、舐めなくても使えるから……!」
揶揄われているのだと分かっていても、真っ赤になっているであろう顔が恥ずかしくてたまらない。ライザはぷいと顔を背けると、今度は慎重にカップを口に運んだ。舌先の火傷は、少しましになっているような気がした。
仕事に行く前に強めの回復薬を一気飲みしなければと考えつつ、ライザはふらつく身体をそっと起こした。すると、隣で眠っていたイグナートも目覚めたのか身体を起こした。
「ライザ、まだ早い。もう少し寝て体力を回復しておかないと今日一日もたないぞ」
「……誰のせいだと思ってるのよ」
苦笑しつつ、ライザは寝乱れた髪を手櫛で整える。
「シャワーを浴びてくるわ。昨晩は何も食べてないし、早めの朝食にしましょう」
浴室へ行こうと立ち上がったら、イグナートがライザの手首を掴んだ。ぐいっと引き寄せられてそのまま彼の腕の中に戻る。
「あの石鹸は、だめだ」
「え?」
「こんなおいしそうな匂いをさせてたら、食べられてしまう」
「あなたは散々食べておいて、そんなことを言うのね」
おかしくなって小さく笑うと、イグナートが抱きしめる腕に力を込めた。
「俺はいいんだよ」
「朝にシャワーを浴びる時は、香料の控えめな石鹸を使うことにしてるから大丈夫よ。あまり強い香りを纏っていると、調合の邪魔になるから」
「……それなら、いい」
納得したのか、イグナートが手を離す。やはりあの石鹸を使うのは、イグナートと過ごす夜だけにしようと決めて、ライザは浴室へと向かった。
シャワーを浴びると気分もすっきりして、身も心も目覚めたようだ。
鏡に映るライザの肌には、胸元を中心に赤い痕が散っていた。鎖骨付近につけられた痕は、やはり制服のボタンを全て留めないと見えてしまう。
これが本当にライザに執着している証なら嬉しいのだけど、彼は他の騎士たちにセフレを奪われたくないだけなのだ。
ため息をついて、ライザは制服を着ると胸元のボタンをしっかりと上まで留めた。
リビングに戻ると、イグナートがテーブルの上に食事の用意をしてくれていた。昨晩彼がテイクアウトしてきた食事を、温め直してくれたようだ。
「俺もシャワーを浴びてきていい?」
「もちろんよ。その間に、コーヒーを淹れておくわ」
「砂糖は三つで頼む」
「知ってる」
ライザは笑って浴室に向かうイグナートにうなずいてみせた。
意外と甘党な彼は、コーヒーをブラックで飲むのを苦手としている。仕事中は苦みで目が冴えるからと砂糖を入れずに飲んでいるようだが、ライザと一緒の時は甘さたっぷりのものを好むのだ。
豆から挽いたコーヒーを淹れ終わる頃、イグナートが戻ってきた。シャツを羽織っただけのその姿は、見事に割れた腹筋がちらちらと見え隠れして目に毒だ。濡れた金の髪からぽたりと雫が胸に滴り落ちるのも、なまめかしい。
うっとりと見惚れかけて、ライザは慌ててコーヒーカップに視線を戻した。真っ黒な水面に、少し動揺した自分の顔が映っている。
こうして二人で朝を迎えることは何度もあるのに、ライザはいつまでもそれに慣れない。
気怠げな空気を纏うイグナートを見れば、昨晩彼に激しく抱かれたことを思い出してしまうし、それに反応して身体がまた熱くなる。
仕事中は、イグナートとは何の関係もないといった顔をしなければならない。うっかり二人で過ごした夜のことを思い出して表情を変えることがあってはならないのだ。
心を落ち着かせようとコーヒーを飲もうとしたライザは、思った以上に多くの量を口に含んでしまった。淹れたてのコーヒーは熱く、舌先に鋭い痛みが走る。
「……っ」
「どうした?」
熱さに目を白黒させながらも、なんとか口に含んだ分を飲み込んで、ライザは涙目でイグナートを見上げる。
「火傷しちゃった」
ヒリヒリするとつぶやきながら舌を出してみせると、近づいてきたイグナートがそれに吸いついた。ちりっとした痛みを感じたが、それよりも深く絡められる舌に動揺してしまう。
「んぅ、ぁ……っ」
口の中に残っていたコーヒーの味を舐め取るかのように、イグナートの舌はライザの口内を動き回る。濃厚な口づけに腰が砕けそうになったころ、ようやく解放された。
「治った?」
「治る……わけ、ないじゃない」
息を荒げながらにらむように見上げると、イグナートは悪戯っぽい表情でライザの顔をのぞき込んだ。
「ほら、傷口は舐めるとよくなるっていうだろ。俺に治癒の力があったら、ライザの傷はいつだって舐めて治してやるのにな」
「治癒の力は、舐めなくても使えるから……!」
揶揄われているのだと分かっていても、真っ赤になっているであろう顔が恥ずかしくてたまらない。ライザはぷいと顔を背けると、今度は慎重にカップを口に運んだ。舌先の火傷は、少しましになっているような気がした。