【書籍化決定】身体だけの関係だったはずの騎士団長に、こっそり産んだ双子ごと愛されています

二人の初夜

 イグナートに連れて行かれたのは、彼の寝室だ。部屋の中に入ったところで下ろされたと思ったら、ライザの身体は扉に押しつけられた。両腕で囲うように閉じ込められて、ライザの鼓動も速くなる。

「ようやく二人きりになれた」

 そう囁いて、イグナートはライザの頬に触れる。ゆっくりと顔を近づけられて、ライザはそっと目を閉じた。

 最初は啄むように触れるだけだったキスは、あっという間にお互いの舌を絡めあう濃厚なものになる。体温はどんどん上がり、同時に身体から力が抜けていく。腰に添えられたイグナートの手がなければ、ライザは腰砕けになっていたに違いない。

「まだキスしかしてないのに、ぐったりして」

 肩で息をするほど呼吸を乱したライザを見て、イグナートが笑う。

「だって」

「まぁその顔好きだからいいんだけど」

 頬に唇を押し当てたあと、イグナートはライザのドレスに手をかけた。首のうしろで結ばれたリボンと腰のベルトを解けば、ドレスはあっという間に脱げてしまう。

「待っ……、手際よすぎない?」

「ずっとこのリボンを解きたくて、うずうずしてたんだ。すごく似合ってたけど、やっぱりちょっと背中を見せすぎだな」

 小さく笑ったイグナートは、ライザの身体をくるりと返すと背中に口づけた。そのまま強く吸われて、痕を刻まれたことに気づく。

「ん……っ」

 思いがけない場所へのキスに、身体が震える。触れられた場所から熱が広がって、身体が期待に疼くのが分かった。

「このまま、ここで抱きたくなってしまうな」

 うしろから抱きしめたイグナートが、耳元で囁く。

 彼がライザを欲しがっていることが分かって、たまらなく嬉しい。ちゃんと結婚するまで抱かないというイグナートの宣言は、かつて二人の関係をライザが勘違いしていたことからくるものであるのは分かっていた。だけど、ずっとお預けをされていたような状況に、ライザの身体はずっと焦れていた。

「ぁ、イグナート……もう、欲しい」

 振り返って思わずねだると、イグナートが低く唸った。

「襲いかかりそうになることを言わないで、ライザ。まだ夜は始まったばかりだ、もっとじっくりとライザを愛したいんだよ」

「だって、私もずっとこうしたかった……」

「それはもちろん俺もだけど。扉の前で立ったまま、なんてさすがにがっつきすぎだろう」

 熱いため息をつきながら、イグナートが笑う。吐息が耳にかかって、その刺激にさえライザはぴくんと肩を跳ねさせてしまった。

「初夜なんだから、ちゃんと思い出に残る素敵な夜にしたいんだ。ライザの心にも身体にも、俺の存在を刻み込みたい」

 そんなことを言いながら、イグナートはライザの身体を抱き上げた。まっすぐに向かった先はベッドで、ライザはまるで宝物を扱うような丁寧さでそっと横たえられる。

 自らの服もあっという間に脱ぎ捨てたイグナートは、すぐにベッドへ上がってくるとライザに覆いかぶさった。


 引き寄せられるようにキスをしながら、強く抱きあう。イグナートの身体も熱くて、伝わってくる鼓動も速くて、自分と同じ気持ちであることがたまらなく嬉しい。

「ライザ、俺の最愛の人。きみと未来を共にすることができて、本当に幸せだ」

「私も本当に幸せ。ずっとそばにいてね、イグナート」

「もちろんだ、ライザ。もう絶対に離さない」

 キスの合間にお互いの名を呼び合いながら、二人は共に過ごすことのできる幸せに浸った。



 絶え間なく与えられる快楽と甘いキスを、ライザはうっとりと受け止める。この人に確かに愛されているのだと思うと、胸が苦しくなるほどに嬉しい。その気持ちは涙となって、ライザの瞳からこぼれ落ちた。

 それに気づいたイグナートが、涙を吸い取るように目尻に口づけた。

「よすぎて泣いちゃった?」

「それもあるけど……、幸せすぎて」

「あぁ、そうだな。俺も同じだ。またこの手でライザを抱けることの幸せに、涙が出そうだ」

 涙の跡が残る頬にもう一度口づけたあと、イグナートはライザの顔をのぞき込んだ。 

「だけど、欲しいのは身体だけじゃない。一番欲しかったのは、ライザの心だから」

「心も身体も、私の全てでイグナートが好きよ。きっと、最初からそうだったわ」

「ありがとう、ライザ。俺も最初の夜からずっと、身も心もライザに捧げてる」

 何度も名前を呼び、愛の言葉を囁きながら、イグナートはライザの身体のあちこちにキスを落としていく。時折ちくりと甘く痛むのは、彼が痕を残しているから。懐かしいその痛みに、また泣きたくなるほどの喜びを感じた。


「愛してる、ライザ。本当に、愛してる」

 甘い言葉と共に与えられるのは、意識が飛びそうなほどに激しい快楽。自分も同じ気持ちだと、愛していると伝えたいのに、唇からは意味をなさない喘ぎ声しか飛び出さない。

 快楽に耐えるため、指が白くなるほど強く握りしめていたシーツを離し、ライザは震える手でイグナートに抱きついた。

「ぁ、……イグナー……っ、愛して……っんん」

「ライザ……」

 必死に伝えた言葉が届いたのか、イグナートの抱きしめる腕が強くなる。今度こそライザの意識は、真っ白に染まっていった。



 ぼんやりと目を開けたライザは、天井の模様がいつもと違うことに気づいて一瞬戸惑う。

 少し考えて、昨夜はイグナートの部屋で過ごしたことを思い出し、視線を横に向ける。そこには、目を細めてライザを見つめるイグナートがいた。

「おはよう、ライザ」

「おはよう。起きてたなら声かけてくれたらよかったのに」

「ここはどこ? ってきょとんとした顔するライザが可愛かったから、見惚れてた」

 全部顔に出ていたのが恥ずかしくて、誤魔化すように笑いながらライザは彼の胸に飛び込む。しっかりと抱き留めてくれた腕に包まれて、思わず幸せなため息が漏れた。

 時計を見れば、まだ朝早い。昨夜は遅くまでイグナートに抱かれていた記憶があり、睡眠時間は短いはずだが案外気分はすっきりしている。

 とはいえ、全身――特に足腰が怠いのは、昨夜のあれこれの影響だろう。三年と半年分抱くと宣言したイグナートの求めに、ライザも全力で応えてしまったから。

 お互いのぬくもりを感じながら過ごす夜は、あまりに心地よくて幸せで、離れられなかったのだ。

「子供たちを迎えに行くのは昼からだから、それまではライザを独り占めさせて」

 そう言ってゆっくりと近づいてきた唇を、ライザは笑って受け止めた。

 
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