恋はいらないのに俺様CEOが迫ってきます
婚約破棄と悪の組織のエージェント
成田空港を発ち、ジョン・F・ケネディ空港に到着したのは十時頃だ。

ショートブーツにベージュのロングコートを羽織った宮内梨乃(みやうちりの)は、入国審査の長蛇の列に並んでいる。

ひとり旅なので話し相手はなく、退屈しのぎにパスポートを開いて自分の顔写真を見た。

更新してからひと月も経っていない写真は今と変わらない。

ストレートの黒髪は肩までの長さで、色白の肌にはっきりとした二重の目。

二十九年生きてきて可愛いと言ってくれた男性は何人かいたけれど、この五年間はひとりの相手と一途な交際を続けてきた。

(この写真、嫌だな。未来の幸せを信じているような目をしてる。このあとどん底に突き落とされるとも知らずに、バカみたい)

四十分も待たされてから、やっと入国審査の順番が回ってきた。

窓口に立っているのは大柄なアメリカ人男性で、日本では平均的な身長の自分がまるで子供の背丈に感じる。

少しだけ心細さを覚えつつ、流暢とまではいかない英語で受け答えをした。

「アメリカに来た目的は?」

「観光です」

「ひとりで?」

「そうです」

どこのホテルに何泊するのか、どこを観光するのかまで聞かれて戸惑う。

前に並んでいたアジア人らしき夫婦はすぐに通過していたのに、なぜこんなにも質問されるのかわからない。

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