忘れた初恋
第二十二章「心の選択」
会場の空気は、凍りついたように重かった。
父の声が響き渡ったあと、誰もが息を呑み、視線を私に注いでいる。
「莉子。お前が選べ」
父の鋭い目。
その隣で御曹司は勝ち誇ったように微笑んでいた。
そして目の前には、私の手を握りしめる悠真。
——選べ。
家か、立場か、それとも……心か。
胸の奥が、痛みで軋んでいた。
これまではいつも“家のため”に黙ってきた。
十年前も、そうだった。
雨の日、幼い私は彼の瞳を見つめながら——。
「……わかったわ。じゃあ、忘れる」
そう告げたあの瞬間から、私はずっと“忘れたふり”を続けてきた。
本当は忘れていなかったのに。
本当は、彼だけを想い続けていたのに。
「莉子」
悠真の声が、私を呼んだ。
手に込められる熱が、心臓に火を灯す。
父の声が再び響く。
「答えろ。今ここで」
足が震え、喉が渇く。
けれど、もう逃げられなかった。
これ以上、誤解を重ねたままではいられない。
「……私は」
小さく声を震わせながら、言葉を探す。
会場の視線が突き刺さり、御曹司の笑みが冷たく揺れる。
でも、悠真の瞳だけは、ただ真っ直ぐに私を見ていた。
「私は……父の娘である前に、一人の人間です」
ざわめきが広がった。
震えながらも、声は止まらなかった。
「立場のために心を偽ることは……もうできません」
父の目が怒りで細められる。
御曹司が息を呑む。
私は胸に手を当て、涙をこらえて続けた。
「私は……誰かに決められた未来ではなく、自分の心で選びたい」
悠真の瞳が揺れた。
私の言葉に、確かな光が宿る。
でも、まだ言えなかった。
——“初恋だった”と。
——“ずっと、あなたを想っていた”と。
その言葉を出す勇気は、まだ持てなかった。
けれど、この瞬間。
私は初めて、自分の心を選んだ。
父の声が響く。
「……愚かな娘だ」
冷たい宣告。
会場の重苦しい空気が押し寄せる。
けれど、不思議と怖くなかった。
悠真の手が、まだ私を強く握っていたから。
初恋を隠して生きるのは、もうやめる。
たとえまだ言葉にできなくても、私の心は——彼を選んだ。
父の声が響き渡ったあと、誰もが息を呑み、視線を私に注いでいる。
「莉子。お前が選べ」
父の鋭い目。
その隣で御曹司は勝ち誇ったように微笑んでいた。
そして目の前には、私の手を握りしめる悠真。
——選べ。
家か、立場か、それとも……心か。
胸の奥が、痛みで軋んでいた。
これまではいつも“家のため”に黙ってきた。
十年前も、そうだった。
雨の日、幼い私は彼の瞳を見つめながら——。
「……わかったわ。じゃあ、忘れる」
そう告げたあの瞬間から、私はずっと“忘れたふり”を続けてきた。
本当は忘れていなかったのに。
本当は、彼だけを想い続けていたのに。
「莉子」
悠真の声が、私を呼んだ。
手に込められる熱が、心臓に火を灯す。
父の声が再び響く。
「答えろ。今ここで」
足が震え、喉が渇く。
けれど、もう逃げられなかった。
これ以上、誤解を重ねたままではいられない。
「……私は」
小さく声を震わせながら、言葉を探す。
会場の視線が突き刺さり、御曹司の笑みが冷たく揺れる。
でも、悠真の瞳だけは、ただ真っ直ぐに私を見ていた。
「私は……父の娘である前に、一人の人間です」
ざわめきが広がった。
震えながらも、声は止まらなかった。
「立場のために心を偽ることは……もうできません」
父の目が怒りで細められる。
御曹司が息を呑む。
私は胸に手を当て、涙をこらえて続けた。
「私は……誰かに決められた未来ではなく、自分の心で選びたい」
悠真の瞳が揺れた。
私の言葉に、確かな光が宿る。
でも、まだ言えなかった。
——“初恋だった”と。
——“ずっと、あなたを想っていた”と。
その言葉を出す勇気は、まだ持てなかった。
けれど、この瞬間。
私は初めて、自分の心を選んだ。
父の声が響く。
「……愚かな娘だ」
冷たい宣告。
会場の重苦しい空気が押し寄せる。
けれど、不思議と怖くなかった。
悠真の手が、まだ私を強く握っていたから。
初恋を隠して生きるのは、もうやめる。
たとえまだ言葉にできなくても、私の心は——彼を選んだ。