忘れた初恋
第二十五章「真実の告白」
会場は混乱の渦中にあった。
父の怒声と御曹司の非難、ざわめく招待客たち。
そのすべてを背に、私は悠真の手を強く握りしめていた。
「莉子! 考え直せ!」
父の声が轟く。
「家の未来を捨ててまで、その男に何がある!」
御曹司が冷たく嗤った。
「彼は副社長であっても、結局は使用人にすぎません。あなたにふさわしいはずがない」
怒りと蔑みが重くのしかかる。
けれど、私はもう揺れなかった。
「……違います」
震える声で、私ははっきりと告げた。
「彼は、立場ではなく、私の心をずっと守ってくれていた人です」
御曹司の顔色が変わり、父が眉をひそめる。
会場中が静まり返り、次の言葉を待っていた。
「十年前の雨の日……私は、彼を好きだと伝えられなくて、『忘れる』と口にしました」
喉が熱くなり、涙がこぼれる。
「でも……忘れたことなんて、一度もなかった」
ざわめきが広がる。
悠真が息を呑んで、私を見つめていた。
「私は……彼が、初恋でした」
その一言で、胸が解き放たれるのを感じた。
十年分の痛みと後悔を、やっと言葉にできた。
悠真の瞳が揺れ、唇が震える。
次の瞬間、彼は私を強く抱き寄せた。
「莉子……」
低く、掠れた声。
「俺もだ。十年前からずっと……お前だけだった」
耳元に届くその言葉に、全身が震える。
「忘れられるわけがない。お前が『忘れる』と言ったあの日から……俺はお前を取り戻すためだけに生きてきた」
涙があふれ、声にならない嗚咽が漏れた。
会場中の視線も、父の怒りも、御曹司の嘲りも、もうどうでもよかった。
私は腕を回し、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……! ずっと忘れたふりをして……あなたを苦しめて……」
「いい。もういい」
悠真の手が私の背を包み込む。
「これからは、俺の隣で笑ってくれれば、それでいい」
その言葉に、胸の奥が熱で満ちる。
父が叫んだ。
「許さん! そんな勝手は——」
けれど、会場にいた重鎮たちが口々に囁き合い始めた。
「娘の意思を無視するのは……」
「十年の想い……」
「むしろ彼の方が相応しいのでは」
ざわめきは父の声を掻き消し、流れは変わりつつあった。
私は父をまっすぐに見つめた。
「父様。私はもう、“社長令嬢”としてではなく、一人の女性として生きます」
その瞬間、父の顔が苦悩に揺れた。
怒りだけではなく、初めて娘の意思を真正面から突きつけられた戸惑いが見えた。
悠真が私の手を取り、会場の中央に立った。
彼の声がはっきりと響く。
「俺は彼女を幸せにする。地位も名誉も失っても構わない。……それでも、彼女を手放すことはない」
沈黙のあと、会場は大きな拍手に包まれた。
父はなお険しい顔を崩さなかったが、その怒声はもう響かなかった。
私と悠真は視線を重ねた。
嵐の日から始まった初恋は、すれ違いと誤解を経て、ようやく重なった。
「悠真さん……」
「莉子……」
二人の声が重なり、涙と笑みが混ざる。
長い年月を超えて、ようやく“真実の告白”が交わされた瞬間だった。
父の怒声と御曹司の非難、ざわめく招待客たち。
そのすべてを背に、私は悠真の手を強く握りしめていた。
「莉子! 考え直せ!」
父の声が轟く。
「家の未来を捨ててまで、その男に何がある!」
御曹司が冷たく嗤った。
「彼は副社長であっても、結局は使用人にすぎません。あなたにふさわしいはずがない」
怒りと蔑みが重くのしかかる。
けれど、私はもう揺れなかった。
「……違います」
震える声で、私ははっきりと告げた。
「彼は、立場ではなく、私の心をずっと守ってくれていた人です」
御曹司の顔色が変わり、父が眉をひそめる。
会場中が静まり返り、次の言葉を待っていた。
「十年前の雨の日……私は、彼を好きだと伝えられなくて、『忘れる』と口にしました」
喉が熱くなり、涙がこぼれる。
「でも……忘れたことなんて、一度もなかった」
ざわめきが広がる。
悠真が息を呑んで、私を見つめていた。
「私は……彼が、初恋でした」
その一言で、胸が解き放たれるのを感じた。
十年分の痛みと後悔を、やっと言葉にできた。
悠真の瞳が揺れ、唇が震える。
次の瞬間、彼は私を強く抱き寄せた。
「莉子……」
低く、掠れた声。
「俺もだ。十年前からずっと……お前だけだった」
耳元に届くその言葉に、全身が震える。
「忘れられるわけがない。お前が『忘れる』と言ったあの日から……俺はお前を取り戻すためだけに生きてきた」
涙があふれ、声にならない嗚咽が漏れた。
会場中の視線も、父の怒りも、御曹司の嘲りも、もうどうでもよかった。
私は腕を回し、彼にしがみついた。
「ごめんなさい……! ずっと忘れたふりをして……あなたを苦しめて……」
「いい。もういい」
悠真の手が私の背を包み込む。
「これからは、俺の隣で笑ってくれれば、それでいい」
その言葉に、胸の奥が熱で満ちる。
父が叫んだ。
「許さん! そんな勝手は——」
けれど、会場にいた重鎮たちが口々に囁き合い始めた。
「娘の意思を無視するのは……」
「十年の想い……」
「むしろ彼の方が相応しいのでは」
ざわめきは父の声を掻き消し、流れは変わりつつあった。
私は父をまっすぐに見つめた。
「父様。私はもう、“社長令嬢”としてではなく、一人の女性として生きます」
その瞬間、父の顔が苦悩に揺れた。
怒りだけではなく、初めて娘の意思を真正面から突きつけられた戸惑いが見えた。
悠真が私の手を取り、会場の中央に立った。
彼の声がはっきりと響く。
「俺は彼女を幸せにする。地位も名誉も失っても構わない。……それでも、彼女を手放すことはない」
沈黙のあと、会場は大きな拍手に包まれた。
父はなお険しい顔を崩さなかったが、その怒声はもう響かなかった。
私と悠真は視線を重ねた。
嵐の日から始まった初恋は、すれ違いと誤解を経て、ようやく重なった。
「悠真さん……」
「莉子……」
二人の声が重なり、涙と笑みが混ざる。
長い年月を超えて、ようやく“真実の告白”が交わされた瞬間だった。