社内では秘密ですけど、旦那様の溺愛が止まりません!

秘密の関係とお嫁さんランキング

「りょうくん、ネクタイ曲がってるよ」

「……また?」

朝のキッチンに、トーストの香りが広がる。
稲木(いなぎ)(りょう)——じゃなくて、“浅賀(あさか)亮”。
私の夫であり、会社では“地味な同期”を演じている人だ。

「もう、結び方下手なんだから。じっとしてて」

「結んでもらうために、わざとだよ」

その言葉に私も朝からドキドキしてしまう。でもそんな素ぶりなんて見せず、

「そういうこと言うと、会社で素が出るよ!?」

ふふっと笑って、彼のネクタイを整える。こうやって彼の身なりを直すの、何度目だろう。

高校のときも、体育祭のあと、汗だくになって乱れた彼の制服のボタンを留めてあげた。
そのときの亮は、今よりずっと不器用で、顔を真っ赤にしてた。
(そのくせ、帰り道に「ありがとう」しか言えなかった人だったな……)

今はもう、ネクタイを結ばせながら平然と甘いことを言う。時々、そういう変化が面白くて、少しだけ胸がきゅんとする。

「じゃあ俺、先に出るね」

「うん。私は10分後に行くね」

そう言うと玄関まで送った。

「いってきます、渡辺さん」

「……いってらっしゃい、浅賀くん」

そう笑い合うと掠めるようなキスをした。
玄関のドアが閉まると、いつも少しだけ胸がきゅっとなる。
< 1 / 50 >

この作品をシェア

pagetop