Love Sky Travel

17 行こう…!

「行こう…!」

「はぁぁぁあ?
行くってどこに!?
ラブホにでも連れて行くんですか!?」

私は怒りの形相でそう言った。

「違うよ!
頼む、俺を信じて着いてきてくれ!」

そう土下座しそうな勢いで言う仙石機長に負けて、私は彼の車に乗った…

「どこに行くんですか?」

「…………。」

仙石機長は真剣な表情で黙ったままで、何も言わなかった。

そして、車は都内の病院の駐車場に到着した。

病院…???

仙石機長は私が着いてきているかを確認しながらだが、病院のエントランスをくぐり、エレベーターに乗り込んでいく。
私はとりあえず何も言わずに着いて行く。

「妻だ…」

とある、個室の病室で立ち止まった仙石機長は言う。

そこには、人工呼吸器に繋がれた、痩せた女性が静かに眠っていた。

「え…」

「数年前の事故で植物状態で…
もう、目覚める見込みは無いらしい…」

「そんな…」

「妻の両親にも、離婚を勧められている。
今家庭裁判所で離婚調停中だ。
情が完全に無くなった訳じゃ無い。
だけど、俺は…
水瀬の事が…す…
いいや、君を愛してしまった…」

「仙石機長…」

「ひどいもんだよ。
彼女が事故った相手は飲酒運転でな。
事故なんかじゃない、殺人事件さ。
最近、ようやく飲酒犯の量刑が決まってさ…
俺も、妻の家族も、とりあえずの心の整理をつけたんだ。

もう、4年前の話だが、裁判が長引いたんだ。

君にはすまない事をしてしまった…
離婚間近とは言え…

初めから、ここに連れてくるべきだったんだ。

だけど、年甲斐もなく、浮かれてしまった。
君も、俺を好きなんだと思うと、俺は…」

仙石機長は奥さんの手を取った。
その瞳には、やるせない涙が浮かんでいた。

「久子…
もう、いいかな…?
俺、大切な人が出来たんだ…
すまない…」

そして、仙石機長は静かに涙を流した。

「あら、直哉さん、きてたの?」

振り返ると、そこには恰幅のいい50代ほどの女性がいた。

「お母さん…」

「あら、その子は…?」

「俺の…
大切な人です…」

「そう…
もう、良いのよ。
ありがとうね、ここ4年間も。
久子は幸せだったわ。
もう、自由になって、いいのよ。
ねぇ、ひーちゃん?
良いわよねぇ?」

その女性は寝ている久子さんに、優しく語りかけた。

「お母さん…
すいません…」

「幸せになりなさい…!
それが、私たちの願いよ。」

そして、私たちは病室を後にした…

車の中で。
どちらも、何も話さなかった。

ただ、私は仙石機長の手を握りしめた。
そうしないと、彼は泣き崩れてしまいそうだったから…

「先に…
言ってくれれば…
私だって…」

「そうだよな。
俺は良い歳して、恋愛バカになって、それさえ気づかなかったんだ。」
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