敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
別世界の人なのに……
「どうぞ、好きなところに座って」
「……はぃ」

 両親を見送った後、何度も断ろうとしたけれど、近々両親がまた上京するという流れになってしまっているため、『今後のことをきちんと話し合おう』という千尋の提案を呑まざるを得なかった。
 そして、他の人に聞かれないようにと、カフェやバーといった場所ではなく、落ち着ける場所がいいだろうということで、結局彼のマンションに辿り着いた。

 青山にある高級レジデンスマンション。
 広々としたリビング、無駄な物が一切置かれていない洗練された間取り。
 白とグリーンとナチュラルウッドを基調とした明るめなデザインで、ハウスキーパーでも雇っているのか、塵一つ見当たらない。

「落ち着かない? テレビでも付けようか?」
「あっ、いえ……大丈夫です」

 L字型のソファに腰を下ろし、美絃は深呼吸する。

「まずは、状況を整理した方がよさそうだね」
「……できれば」

 千尋はハーブティーが入っているカップを美絃の前の置き、隣りに腰を下ろした。

「今日は取引先の打ち合わせがあのホテルであって、ちょうど打ち合わせが終わって帰ろうとしたところで、君と田嶋くんが言い合っているのを目撃したんだ」
「……あぁ」
「田嶋くんと交際しているのは知っていたから、単なる喧嘩だろうと通り過ぎようと思ったんだけど。……あまりにも一方的に暴言を吐かれていたし、別れの言葉を吐き捨てていったものだから……」

 思い出したくないあの瞬間が蘇った。
 膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめ、込み上げてくる感情を必死に堪える。
 そんな美絃の手に千尋はそっと手を重ねた。

「よく耐えたな」
「……ぅっ……ッん……」

 張り詰めていたものが解けたのか。
 美絃の瞳から大粒の涙が溢れ出した。
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