敏腕エリート部長は3年越しの恋慕を滾らせる
張りぼての婚約者
「ただいま」
「千尋さん、おかえりなさい。夕食の用意はできてます」

 八月中旬。
 大手スポーツメーカー『WING』社も夏季休業中なのだが、海外を拠点としているプロアスリートたちが帰省しているのもあって、千尋はスポンサー契約の更新手続きをしに外出していた。

 シャワーを浴び終えた千尋がダイニングに着き、『お疲れ様でした』と缶ビールで乾杯する。
 ビーフシチューとサラダとスープ、デザート用にいちごババロアを用意した美絃は、ビーフシチューを頬張る千尋をじっと見つめる。

「旨いっ!!」
「よかったぁ~~」
「美絃は、ホント料理上手だな」
「そんなことないですよっ」
「この間のロールキャベツも凄く美味しかったよ」
「……そう言って貰えると、作り甲斐がありますね」

 美絃は千尋の正直な言葉が嬉しくて、つい顔が綻んでしまう。
 元彼にも何度も作って来たが、こんな風に美味しそうに食べる姿を見たことが一度も無かった。
 美絃が作って当然、美味しくて当たり前……そう思われていたに違いない。



 食後にリビングで映画を観ていると、千尋の左肩にこつんと何かが当たった。

(観たいと言ってた映画なのに……。まぁ、寝顔が可愛いからいいか)

 千尋は気持ちよさそうに寝落ちている美絃をそっと抱き上げ、美絃の寝室のベッドへと運ぶ。
 さらりとした前髪を横に流し、美絃のおでこに軽くキスを落とした。

「おやすみ」
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