魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

5.隣国ヴァルドラードへ

「セレーヌ、殿下のこともエルバトリアのことも考えなくていい。皇帝陛下のもとで思う存分魔力を使いなさいね。」
「ありがとう、お母様。がんばるわ。お父様に体に気をつけてって伝えて?」
「わかったわ。ランスロット様、よろしくお願いします。」

 私は母に別れを告げて家を出た。少し離れた場所に馬車が停めてあると言われてついていくと、突然目の前にキラキラした馬車が現れた。

「これって……魔力の馬車ですか!?」
「よくおわかりですね。どうぞ。」

 ランスロットさんは執事らしく、丁寧な所作で馬車の扉を開いた。魔力の馬車なんて初めてだ。ドキドキしながら中へ入ったものの、乗り心地は普通の馬車と変わらない。

「中は普通ですよね?」
「そ、そうですね。」

「妙な馬車にされそうだったので、普通のにしてくれって言ったんです。」
「妙な馬車?」
「婚約者を迎えに行くから云々言っていたので、もっと華やかな感じにしたかったのかもしれません。でも馬車って見た目より乗り心地が大事ですから。」

 この馬車は皇帝陛下が作ったのだろう。扉が閉じられると、体が宙に浮いた気がした。窓の外を見ると、みるみる家が小さくなっていく。

「空を飛ぶなんて聞いてませんっ!」
「言ってませんでした。飛んだ方が速いんです。」

 屋敷の前に母の姿が見える。母はこの馬車を見ているだろうか。甘い香りが漂ってきて隣を見たら、ランスロットさんは母からお土産にもらったクッキーをバリバリ食べていた。
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