魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

13.花が枯れない魔力

 ランスロットはヴァルドラード城の自室で目を覚ました。

「あれ?なんで寝てたんだ?」

 よくわからないまま執務室へ向かうと、アルフォンスはいつものように書類に目を通していた。

(なんか怪しいな……眠らされてたんじゃないよな……?)

 ランスロットは掃除をしながら、それとなく執務室の中を見回した。

(ん?本棚の中に何か……)

「ランスロット、渡してきてくれ。」

 ランスロットは、アルフォンスから魔法石を受け取って執務室を出た。毎日毎日セレーヌのために、あれをしろこれをしろと言ってくる。魔法石もそろそろ自分で渡せばいいのにと思ってしまう。セレーヌの部屋へ向かっていくと、本を抱えたセレーヌが向こうから歩いてくるのが見えた。

「あ、ランスロットさん!おはようございます!」
「おはようございます、セレーヌ様。朝から勉強熱心ですね。」

「ランスロットさん、よければアドバイスを頂けませんか?色々調べたんですが、ちょっと難しくて……」
「新しい魔力を勉強なさっておられるのですか?」
「そうなんです!」

 ランスロットはセレーヌに促されて部屋に足を踏み入れた。テーブルの上にはすでに何冊もの本が積み重なっていて、片隅に白い花でできた冠が置かれていた。

(あの花は、エルバトリアの花……?どうしてここにあるんだ?)

 ランスロットの頭は高速回転した。

「どのような魔力をお調べになられているのですか?」
「お花が枯れないようにするための魔力です。」

「枯らせたくないのはこの花の冠ですか?」
「えっ、あ、えっと……それもそうなんですけど、お部屋のお花も枯れないようにできたらいいなと思って……」

 セレーヌの目はわかりやすく泳いでいる。この花の冠は執務室の本棚にあったものと同じだ。

「この花はエルバトリアの花。ヴァルドラードには咲いていないんですよ。セレーヌ様、この花の冠はどうされたのか、伺ってもよろしいですか?」
「それは、えっと……」

「陛下とエルバトリアへ行かれたんですか?」
「最初はランスロットさんだと思っていたんですけど……」

 ランスロットはため息をついた。

「私は部屋で寝ていました。というより寝かされていました。きっと私がセレーヌ様と一緒にエルバトリアへ行くことが気に入らなかったのでしょうね。」
「やっぱり、陛下だったのですね……」

「陛下の変装を見破るとは、お見事としか言いようがありません。」
「母のクッキーを断られたので、変だなと思って……」

「あー!母上のクッキーがあったのですか!?食べたかったー!」
「あります!2つもらいましたから。どうぞ!」

「やったー!ありがとうございます、セレーヌ様!感謝申し上げます。」

 ランスロットはクッキーの袋を受け取って微笑んだ。

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