魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす
2.皇帝の側近
「セレーヌ様、ヴァルドラードへ来ていただけませんか?」
「私が……ヴァルドラードへ?」
「はい。あのようなポンコツ王太子のためではなく、我が主のために、あなたのその素晴らしい魔力をお使いいただきたいのです。」
「ポンコツって……ふふふ。」
「あぁ、失礼。つい本音が。」
ランスロットさんは、私が婚約破棄されたところを見ていたのだろう。
「大変お見苦しいところをお見せ致しました。」
「いえ、運が良かったです。こうして平然とセレーヌ様をお誘いできますからね。」
婚約破棄された今、ステファン様の魔力を抑えるという役目もない。私の魔力が役に立つのならと思うけれど、行き先はあのヴァルドラードだ。
「ヴァルドラードの皇帝陛下は、とても魔力が強いとお聞きしております。私が皇帝陛下のためにできることなんてあるのでしょうか。」
「実は、女性の魔力使いの方を探しているんです。詳しいことは、ヴァルドラードへお越しいただいてからお話しします。」
ランスロットさんは私の魔力を買ってくれている。こんな光栄なことはない。だけど──
「ランスロットさん、実はヴァルドラードのことを良く知らなくて……」
皇帝陛下に関する噂は、人間を食べるとか、生贄を要求するとか、怖いものばかりだ。あまりにも人間離れしているから信じていないけど、心配ではある。
「我が国の陛下は国民を食べますからね。」
「や、やっぱり本当なのですか!?!?」
悲鳴じみた声が出て口を押さえると、ランスロットはケラケラと楽しそうに笑った。
「ははは、冗談ですよ。それらの皇帝陛下に関する噂は、全て私が流しています。」
「えっ……?」
「魔力を維持するために国民を食べ、度々生贄を要求して恐怖政治を行っている……これらは、全て私が創作して各国へ流している噂に過ぎません。」
「どうしてそんなことを……?」
「牽制ですよ。怖い皇帝がいる国を攻めようとは思わないでしょう?あ、1人いましたね。どこかの国のポンコツ王太子が。」
ステファン様のことだ。ステファン様は、自分の魔力が暴発してしまうことは魔力が強いからだと良い様に考えて、ヴァルドラードの結界を攻撃したことがある。あの時は戦争に発展するのではないかと城の中が戦々恐々としていた。
「申し訳ありませんでした。私が止めなければいけなかったのに。なんとお詫びをしたらいいか……」
「セレーヌのせいなんかではありません。それに、もう婚約を破棄されたんですからポンコツと無関係です。お気になさらすに。」
あの時は熱が出ていたから動けなかった。あれだけは今でも後悔している。私はランスロットさんに頭を下げた。
「では、ヴァルドラード行きについて前向きにご検討ください。頃合いを見てお返事を聞きに参ります。」
ランスロットさんの話はとてもありがたい。だけど、魔力が無くなってしまったら、私がヴァルドラードへ行く意味はなくなってしまう。
「とても光栄なお話なのですが、ご期待には添えないと思います。」
「おや、どうしてそう思われるのですか?」
「魔力が……消えてしまうからです。」
「魔力が消える?どういうことですか?」
「私の家には『結婚しなければ魔力を失う』という言い伝えがあるんです。婚約を破棄されたので、そのうち消えてしまうのではないかと思います。」
「そんな……今はまだ使えるのですか?」
「まだ大丈夫みたいですけど。」
必死に習得してきた今までの苦労を思い出して胸が詰まった。ぐっと涙を堪えると、ランスロットさんはパンと手を叩いた。
「良いことを思いつきました。婚約しましょう、セレーヌ様。」
「えぇっ?」
「実は我が国の陛下も結婚相手を探していたんです。結婚前提でいらしてください。皇妃様としてヴァルドラードへお迎えいたします。」
ランスロットさんは恭しく頭を下げた。
「いやいやいや、待ってください!皇帝陛下と結婚だなんて、そんな急に!」
「このままでは魔力が消えてしまうんですよね?もったいないじゃないですか、そんなにたくさんの魔力をお持ちなのに。あのポンコツ王太子に婚約を破棄されたからって、セレーヌ様が魔力を失う必要なんてありませんよ。」
ランスロットさんの言葉はすごく嬉しい。だけど、皇帝陛下とは会ったこともない。
「皇帝陛下が承諾してくださるとは思えません。」
「大丈夫ですよ。セレーヌ様、綺麗だし可愛いし。」
「結婚はそんな簡単なことじゃないですから!」
思いがけず顔が赤くなってしまって慌てた。
「では、1年間の契約で婚約者としてヴァルドラードへ来ていただくというのはいかがですか?」
「1年間の契約……ですか?」
「1年後、継続してヴァルドラードにいてもいいなぁと思ったら、結婚を考えていただけると私は嬉しいです。」
皇帝陛下の婚約者になれば魔力を失わずに済む。その間に、結婚しなくても魔力を失わずに済む方法を探せば良い。
「そういうことでしたら、お願いしたいです。でも、皇帝陛下の承諾を得てください!」
「わかっております。急いで婚約の証明書を持って参ります。」
魔力が消えてしまったら、ヴァルドラードへ行く話は無くなる。
(ランスロットさんが来るまで、魔力が消えませんように……!)
ランスロットさんの後ろ姿を見ながら私は手を組んだ。
「私が……ヴァルドラードへ?」
「はい。あのようなポンコツ王太子のためではなく、我が主のために、あなたのその素晴らしい魔力をお使いいただきたいのです。」
「ポンコツって……ふふふ。」
「あぁ、失礼。つい本音が。」
ランスロットさんは、私が婚約破棄されたところを見ていたのだろう。
「大変お見苦しいところをお見せ致しました。」
「いえ、運が良かったです。こうして平然とセレーヌ様をお誘いできますからね。」
婚約破棄された今、ステファン様の魔力を抑えるという役目もない。私の魔力が役に立つのならと思うけれど、行き先はあのヴァルドラードだ。
「ヴァルドラードの皇帝陛下は、とても魔力が強いとお聞きしております。私が皇帝陛下のためにできることなんてあるのでしょうか。」
「実は、女性の魔力使いの方を探しているんです。詳しいことは、ヴァルドラードへお越しいただいてからお話しします。」
ランスロットさんは私の魔力を買ってくれている。こんな光栄なことはない。だけど──
「ランスロットさん、実はヴァルドラードのことを良く知らなくて……」
皇帝陛下に関する噂は、人間を食べるとか、生贄を要求するとか、怖いものばかりだ。あまりにも人間離れしているから信じていないけど、心配ではある。
「我が国の陛下は国民を食べますからね。」
「や、やっぱり本当なのですか!?!?」
悲鳴じみた声が出て口を押さえると、ランスロットはケラケラと楽しそうに笑った。
「ははは、冗談ですよ。それらの皇帝陛下に関する噂は、全て私が流しています。」
「えっ……?」
「魔力を維持するために国民を食べ、度々生贄を要求して恐怖政治を行っている……これらは、全て私が創作して各国へ流している噂に過ぎません。」
「どうしてそんなことを……?」
「牽制ですよ。怖い皇帝がいる国を攻めようとは思わないでしょう?あ、1人いましたね。どこかの国のポンコツ王太子が。」
ステファン様のことだ。ステファン様は、自分の魔力が暴発してしまうことは魔力が強いからだと良い様に考えて、ヴァルドラードの結界を攻撃したことがある。あの時は戦争に発展するのではないかと城の中が戦々恐々としていた。
「申し訳ありませんでした。私が止めなければいけなかったのに。なんとお詫びをしたらいいか……」
「セレーヌのせいなんかではありません。それに、もう婚約を破棄されたんですからポンコツと無関係です。お気になさらすに。」
あの時は熱が出ていたから動けなかった。あれだけは今でも後悔している。私はランスロットさんに頭を下げた。
「では、ヴァルドラード行きについて前向きにご検討ください。頃合いを見てお返事を聞きに参ります。」
ランスロットさんの話はとてもありがたい。だけど、魔力が無くなってしまったら、私がヴァルドラードへ行く意味はなくなってしまう。
「とても光栄なお話なのですが、ご期待には添えないと思います。」
「おや、どうしてそう思われるのですか?」
「魔力が……消えてしまうからです。」
「魔力が消える?どういうことですか?」
「私の家には『結婚しなければ魔力を失う』という言い伝えがあるんです。婚約を破棄されたので、そのうち消えてしまうのではないかと思います。」
「そんな……今はまだ使えるのですか?」
「まだ大丈夫みたいですけど。」
必死に習得してきた今までの苦労を思い出して胸が詰まった。ぐっと涙を堪えると、ランスロットさんはパンと手を叩いた。
「良いことを思いつきました。婚約しましょう、セレーヌ様。」
「えぇっ?」
「実は我が国の陛下も結婚相手を探していたんです。結婚前提でいらしてください。皇妃様としてヴァルドラードへお迎えいたします。」
ランスロットさんは恭しく頭を下げた。
「いやいやいや、待ってください!皇帝陛下と結婚だなんて、そんな急に!」
「このままでは魔力が消えてしまうんですよね?もったいないじゃないですか、そんなにたくさんの魔力をお持ちなのに。あのポンコツ王太子に婚約を破棄されたからって、セレーヌ様が魔力を失う必要なんてありませんよ。」
ランスロットさんの言葉はすごく嬉しい。だけど、皇帝陛下とは会ったこともない。
「皇帝陛下が承諾してくださるとは思えません。」
「大丈夫ですよ。セレーヌ様、綺麗だし可愛いし。」
「結婚はそんな簡単なことじゃないですから!」
思いがけず顔が赤くなってしまって慌てた。
「では、1年間の契約で婚約者としてヴァルドラードへ来ていただくというのはいかがですか?」
「1年間の契約……ですか?」
「1年後、継続してヴァルドラードにいてもいいなぁと思ったら、結婚を考えていただけると私は嬉しいです。」
皇帝陛下の婚約者になれば魔力を失わずに済む。その間に、結婚しなくても魔力を失わずに済む方法を探せば良い。
「そういうことでしたら、お願いしたいです。でも、皇帝陛下の承諾を得てください!」
「わかっております。急いで婚約の証明書を持って参ります。」
魔力が消えてしまったら、ヴァルドラードへ行く話は無くなる。
(ランスロットさんが来るまで、魔力が消えませんように……!)
ランスロットさんの後ろ姿を見ながら私は手を組んだ。