魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす
17.怪我をした魔獣
掃除を終えた私は森の入口へやってきた。皇帝陛下の許可をもらったから行ってもいいはずだけど、足が踏み出せない。すると、森の奥からロシュフォールが駆けてきた。
「セレーヌ様、来てくださったんですね!ご案内します!」
ロシュフォールはずんずん森の奥へ進んで行く。木漏れ日を受けて明るかった場所から、人が歩かないような獣道に変わっていくと、さすがに不安になって後ろを振り返った。
「帰りはご案内しますから心配しないでください。今から行く場所は、とっておきの場所なんですよ!」
ロシュフォールは陽の当たる芝生の場所に連れてきてくれた。暖かくて昼寝をするのにぴったりだ。ロシュフォールの体は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「ロシュフォール、撫でても良い?」
「え!?あ……は、はい……どうぞ……」
ロシュフォールの体に触れた瞬間、ビリビリとした魔力を感じてぱっと手を離した。
「痛かったですか?」
「いえ、ロシュフォールは魔力が使えるのね。」
ロシュフォールもランスロットさんと同じ皇帝陛下の側近だ。きっと、すさまじい魔力を持っているに違いない。
「そんなことがわかるのですね。すごいなぁ、セレーヌ様は。」
ロシュフォールの毛はすごくしっかりしているけれど、とても手触りが良い。うつ伏せになったロシュフォールを撫でていると、ロシュフォールの目が虚ろになってきた。
「セレーヌ様、も……もうやめてください……寝てしまいそうです……」
すると背後の草むらがガサゴソと音がして、ロシュフォールと同じ色をした魔獣たちが続々と現れた。
「この子たちは、ロシュフォールの家族?」
「家族というより、チームの仲間という感じです。」
「チーム?」
「この森にはたくさんの魔獣が住んでいて、派閥があるんです。」
「なるほど。」
魔獣たちはやたらと体を摺り寄せてくる。
「ははは、撫でられたいみたいです。」
「いいですよ。みんな撫でてあげます!」
つぶらな瞳で見つめてくる魔獣たちを撫でていると、足に小さな怪我の痕が見えた。私は魔力を放って魔獣の怪我を治療した。
「ありがとうございます、セレーヌ様。でも気にしないでください。森で生活しているので、それくらいの怪我は日常茶飯事です。それに、森で魔力を使うと消耗してしまいます。」
「でも、怪我が悪くなることもあるでしょう?」
「その程度ならは自然に治ります。喧嘩さえしなければ心配いりません。」
「魔獣も喧嘩をするの?」
「縄張り争いをするんです。ただ、我々は他の派閥とは距離を取っています。我々は戦うことには慣れていなくて、喧嘩をしても勝てませんから。」
魔獣とはいえ動物だから、話し合うというわけにはいかないのだろう。同じ色をしている魔獣はたくさんいるけれど、言葉を話せるのはロシュフォールだけだ。
「セレーヌ様、そろそろお送りします。陛下が心配するでしょうから。」
「わかりました。怪我をしたら教えてください。少しくらい役に立てると思います。」
「ありがとうございます。」
私は魔獣たちに別れを告げてその場を後にした。すると、森の中がわずかに揺れて地鳴りのような音がした。
「今のはなんですか?」
「……この森ではよくあるんです。急ぎましょう。」
私は早足になったロシュフォールを急いで追いかけた。その時──
(──!!)
森の奥から聞こえたのは、耳をつん裂くような魔獣の叫び声だった。
「今のって……」
「魔獣が喧嘩をしているようです。セレーヌ様、ここを動かないでください。喧嘩をしている最中の魔獣は血気盛んですから、近づかない方が身のためです。」
「ロシュフォールはどこへ行くの?」
「様子を見てきます。」
ロシュフォールはものすごい速さで森の中へ消えた。
(どうしてこんなに胸騒ぎがするんだろう……)
私は胸を押さえた。ただの魔獣同士の喧嘩なら静観しておくべきだ。でもあの声は──私はそっとロシュフォールが消えた方角へ足を踏み出した。
「セレーヌ様、来てくださったんですね!ご案内します!」
ロシュフォールはずんずん森の奥へ進んで行く。木漏れ日を受けて明るかった場所から、人が歩かないような獣道に変わっていくと、さすがに不安になって後ろを振り返った。
「帰りはご案内しますから心配しないでください。今から行く場所は、とっておきの場所なんですよ!」
ロシュフォールは陽の当たる芝生の場所に連れてきてくれた。暖かくて昼寝をするのにぴったりだ。ロシュフォールの体は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「ロシュフォール、撫でても良い?」
「え!?あ……は、はい……どうぞ……」
ロシュフォールの体に触れた瞬間、ビリビリとした魔力を感じてぱっと手を離した。
「痛かったですか?」
「いえ、ロシュフォールは魔力が使えるのね。」
ロシュフォールもランスロットさんと同じ皇帝陛下の側近だ。きっと、すさまじい魔力を持っているに違いない。
「そんなことがわかるのですね。すごいなぁ、セレーヌ様は。」
ロシュフォールの毛はすごくしっかりしているけれど、とても手触りが良い。うつ伏せになったロシュフォールを撫でていると、ロシュフォールの目が虚ろになってきた。
「セレーヌ様、も……もうやめてください……寝てしまいそうです……」
すると背後の草むらがガサゴソと音がして、ロシュフォールと同じ色をした魔獣たちが続々と現れた。
「この子たちは、ロシュフォールの家族?」
「家族というより、チームの仲間という感じです。」
「チーム?」
「この森にはたくさんの魔獣が住んでいて、派閥があるんです。」
「なるほど。」
魔獣たちはやたらと体を摺り寄せてくる。
「ははは、撫でられたいみたいです。」
「いいですよ。みんな撫でてあげます!」
つぶらな瞳で見つめてくる魔獣たちを撫でていると、足に小さな怪我の痕が見えた。私は魔力を放って魔獣の怪我を治療した。
「ありがとうございます、セレーヌ様。でも気にしないでください。森で生活しているので、それくらいの怪我は日常茶飯事です。それに、森で魔力を使うと消耗してしまいます。」
「でも、怪我が悪くなることもあるでしょう?」
「その程度ならは自然に治ります。喧嘩さえしなければ心配いりません。」
「魔獣も喧嘩をするの?」
「縄張り争いをするんです。ただ、我々は他の派閥とは距離を取っています。我々は戦うことには慣れていなくて、喧嘩をしても勝てませんから。」
魔獣とはいえ動物だから、話し合うというわけにはいかないのだろう。同じ色をしている魔獣はたくさんいるけれど、言葉を話せるのはロシュフォールだけだ。
「セレーヌ様、そろそろお送りします。陛下が心配するでしょうから。」
「わかりました。怪我をしたら教えてください。少しくらい役に立てると思います。」
「ありがとうございます。」
私は魔獣たちに別れを告げてその場を後にした。すると、森の中がわずかに揺れて地鳴りのような音がした。
「今のはなんですか?」
「……この森ではよくあるんです。急ぎましょう。」
私は早足になったロシュフォールを急いで追いかけた。その時──
(──!!)
森の奥から聞こえたのは、耳をつん裂くような魔獣の叫び声だった。
「今のって……」
「魔獣が喧嘩をしているようです。セレーヌ様、ここを動かないでください。喧嘩をしている最中の魔獣は血気盛んですから、近づかない方が身のためです。」
「ロシュフォールはどこへ行くの?」
「様子を見てきます。」
ロシュフォールはものすごい速さで森の中へ消えた。
(どうしてこんなに胸騒ぎがするんだろう……)
私は胸を押さえた。ただの魔獣同士の喧嘩なら静観しておくべきだ。でもあの声は──私はそっとロシュフォールが消えた方角へ足を踏み出した。