魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

18.魔力の回復

「無理をさせないでくれ。」

 小さな魔獣マリウスを抱いたまま倒れたセレーヌを支えたのは、アルフォンスだった。セレーヌの腕の中にいるマリウスは、きょとんとした顔でアルフォンスを見上げている。

「マリウスはもう平気だな。」
「はい……申し訳ありません……私がそばにいたのに……」

「マリウスの怪我は完治していない。しばらくじっとしているように言いつけておけ。セレーヌが魔力と引き換えに助けた命だ。」
「はい……承知しております。」

 ロシュフォールはセレーヌを抱えて森を出て行くアルフォンスを見送った。

 ♢♢♢

 アルフォンスはセレーヌの手を握って魔力を送った。しかし、セレーヌは目を覚まさない。

(失った魔力が多すぎるか……)

 アルフォンスは城へ戻るとセレーヌをベッドに寝かせた。手を握り、額に手を当てて魔力を送ってもセレーヌの体は冷たくなる一方だった。

「これでもだめか……」

 急激に魔力を消失すると自力での回復が困難になる。早く魔力を補充して回復させなければ、セレーヌの魔力は完全に消えてしまう。

「仕方ない。悪く思うなよ。」

 アルフォンスはベッドで眠るセレーヌに口付けて魔力を送った。すると、冷たくなっていたセレーヌの手は次第に暖かさを取り戻していった。静かな部屋にセレーヌの寝息が聞こえてきて、アルフォンスは床に座り込んだ。

 セレーヌが森へ入った後、森の魔力が揺らいだ。聖なる泉に変化があったのではないかと思って様子を見ていた。セレーヌが必死にマリウスを助けようとしていた時、自分も森にいたのに──

「また俺は……!」

 もっと早く駆け付けていれば、セレーヌは魔力を失わずに済んだ。手を強く握るとアルフォンスの体は金色に輝いて、その場からぱっと姿を消した。
< 51 / 100 >

この作品をシェア

pagetop