魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

19.側近の秘密

 魔力が完全に回復するまで、ほとんど寝たきりで過ごしてしていたから部屋の外へ出るのは久しぶりだ。ランスロットさんは毎日お見舞いに来てくれて、その度に新しい魔法石を持ってきてくれた。あの小さな魔獣は今では元気に森を走り回っているという。

「今日からまた掃除をがんばろう。」

 廊下の掃除を終えて客間の掃除をしようと歩いていると、いつもは鍵がかかっている部屋の扉が少し開いているのが見えた。中を覗くと皇帝陛下が壁を見上げていた。

「わっ!すみません!」
「構わない。入れ。」

 有無を言わさぬ声に圧倒されて、私はそっと部屋へ足を踏み入れた。

「体調は大丈夫か?」
「はい。ありがとうございました、陛下。魔力を回復していただいて……」

「もう無理はしないでくれ。魔力を失いたくないのだろう?」
「そうですね。」

 魔力を失いたくないから皇帝陛下と婚約してもらったのに、ここで魔力を失ったら本末転倒だ。皇帝陛下の視線の先には、壁に飾られている大きな絵がある。その絵の中に見覚えのある少年の姿があった。

「これは、陛下ですか?」
「あぁ。」

「あまり変わらないのですね。この頃からものすごく魔力が強そうです。」
「否定はしない。」

 絵の中にはたくさんの人が描かれているが、皇帝陛下だけ飛び抜けて魔力が強そうだ。やはりヴァルドラードの皇帝は幼い頃から他の人とは違う存在なのだ。

「俺の隣に立つ銀髪の少年がいるだろう。」
「はい。」

「彼はその頃から一緒にいる俺の側近だ。名をロシュフォールと言う。」
「えっ……」
 
 幼い皇帝陛下の隣で笑っているのは、魔獣ではない。

「ロシュフォールは魔獣に変えられてしまったんだ。ロシュフォールだけではない、城にいた使用人たちも……全員な。」

(魔獣に変えられた……?)

 だとしたら、ロシュフォールがチームだと言って紹介してくれた彼らは、元々お城にいた使用人ではないだろうか。だから魔獣なのに森の生活に慣れていないから怪我をしてしまう。

「どうしてそんなことに……」

 無意識に口に出すと、皇帝陛下は座るように促した。
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