魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

20.デートの誘い

「泉の精霊について教えて。悪の精霊について調べたいの。」

 自室へ戻った私は歴史書に呼びかけた。パラパラとページが開かれて文字が浮かび上がっていく。

「泉を守る精霊は浄化の魔力によって泉を浄化し……」

 精霊について書かれているページを読み進めていると、部屋の扉が叩かれてランスロットさんがやってきた。

「魔力が回復されたらもう勉強ですか。さすが我が皇妃様。」

 ランスロットさんは、美味しい茶葉を持ってきたと言ってテキパキと紅茶を淹れてくれた。部屋の中に花の香が広がって思わず息を吸い込んだ。

「素敵な香りですね。お花の香りがするけど、ちょっと柑橘系も混ざっているような……」
「今のセレーヌ様が元気になる紅茶です。」
「いつもありがとうございます。」

「精霊についてお調べになっていたのですね。」
「さっき、陛下からロシュフォールのことを聞いたんです。どうして教えてくれなかったんですか?すごく大事なことですよね?ルシアは悪の精霊になって、人間を魔獣にしただなんて。」

「最初にそれを聞いたら驚くじゃないですか。自分も魔獣にされてしまうのではないかと思ってエルバトリアへ帰られてしまっては困ります。元々、ヴァルドラードの印象は良くなかったでしょうし。」

 はじめて見たヴァルドラードの城は怖かった。確かに、あの時魔獣に変えられた人間がいるなんて聞いたら怖くて逃げたくなったかもしれない。

「森へ行くなと言われたんですよね?」
「はい。でも諦めていません。ルシアは女性と話したいと言っている。それに、陛下がルシアを封印しているのなら、ルシアは陛下に対して良い印象を持っていないはずです。封印できない私の方が話し相手に向いていると思います。ですから、陛下のお気持ちが向くまで、私はできることをやろうと思います。」

 ランスロットさんは大袈裟に涙を拭くしぐさをした。

「なんと素晴らしいのでしょうか。それでこそあの皇帝のお妃様です。」
「まだ結婚してませんけどね。」

「セレーヌ様、先日のお約束はまだ有効ですか?」
「約束……何かしましたっけ?」

「魔力を回復させた陛下に対してお礼をしたいと仰っておられましたよね?」
「あ、そうでした!お礼……何がいいんだろう……」

「簡単です。セレーヌ様も仰っていたではありませんか、デートって。」
「あれは言葉の綾ってやつです!」

「陛下と一緒なら森へ行けると思いませんか?」
「あ!」

 そういうことか。

「ランスロットさん、頭いい!」
「当たり前です。天才的な皇帝陛下の側近ですからね。」

「どうやってお誘いすればいいでしょうか。」
「それはですね……」

 ランスロットさんとコソコソ話を始めると──

「お前は、余計なことを。」

 どこからか皇帝陛下の声が聞こえて、私とランスロットさんは顔を見合わせた。
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