魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす
21.泉の異変
「いい天気だなぁ。」
皇帝陛下も森へ行くことを楽しみにしてくれているのかもしれないと思うと、ちょっと嬉しい。支度を終えて部屋を出ようとすると、扉が叩かれてランスロットさんが現れた。その背後は皇帝陛下が目を伏せて立っている。
「おはようございます、セレーヌ様。素晴らしいデート日和ですね!」
「すごく天気が良くて驚きました。」
「私も驚きました~ははは。」
ランスロットさんが後ろを見ると、皇帝陛下は明後日の方向に目を向けた。
「陛下が結界をお作りしますので、少しそのままでお待ちください。」
ランスロットさんに促されて、皇帝陛下は渋々といった顔で結界を作りはじめた。体に結界を張られるのは初めてだ。体が皇帝陛下の魔力で覆われているみたいで──
「陛下、なんかおかしな魔力送ってませんか?セレーヌ様のお顔が真っ赤なんですけど!」
「そんなことないですから!」
ランスロットさんは楽しそうに笑っている。私はじっとしたまま早く終わって欲しいと願っていたけれど、全然終わらない。
「陛下、もういいです。やり過ぎると、変に目をつけられますよ?早く行ってください。デート楽しんできてくださいね!」
眩しい笑顔のランスロットさんに見送られて、私は皇帝陛下と一緒に森へ向かった。森へ入るとすぐにロシュフォールが駆けて来た。
「セレーヌ様!お加減はいかがですか?」
「大丈夫です。陛下の魔力をいただいてしまいましたが……あの小さな魔獣は元気ですか?」
「はい。あまり出歩かないようにと言ってあります。」
小さな魔獣だから遊びたいだろうけど、もう危険な目には遭って欲しくない。
「……泉を見てくる。セレーヌを頼む。」
「承知いたしました!」
ロシュフォールはピタリと止まって、まるで敬礼をしているかのように姿勢を正した。しかし皇帝陛下の姿が見えなくなると、ロシュフォールは嬉しそうに飛び跳ねた。
「セレーヌ様、ご結婚されたのですか?」
「まだしてません!」
「でもセレーヌ様に陛下の結界が……嬉しいなぁ!陛下が結婚だぁ!」
ロシュフォールのせいでなんかドキドキしてきた。私はロシュフォールの背中を撫でた。
「あっ、やめてセレーヌ様!セレーヌ様に撫でられると眠くなってしまうんですっ……」
ロシュフォールは静かになって体を伏せると、言いにくそうな表情で顔を上げた。
「セレーヌ様……少しお聞きしてもよろしいですか?」
「なんですか?」
「陛下は長らく結婚しないと言い続けておりました。私やランスロットがどんなに説得してもだめで……なぜセレーヌ様と婚約されたのですか?」
「私の家には『結婚しなければ魔力を失う』という伝承があるんです。ですから、結婚しなければ魔力が消えてしまうかもしれないとお話したら、ランスロットさんが1年間の婚約者としてヴァルドラードへ来て欲しいと提案してくださったんです。」
「ランスロットがエルバトリアへ行ったのですか?」
「はい。恥ずかしながら、私が婚約破棄をされた場にランスロットさんがいらして……」
「婚約者がおられたのですね。」
「はい……」
「破棄されて良かったですね。陛下の方が良いと思いますよ、絶対。私が保証します。」
「それは……私もそう思います。」
ロシュフォールの目がキラキラと輝いている。ステファン様に比べたらという意味だったけど、ロシュフォールは違う意味でとらえている気がする。
「陛下からロシュフォールたちの話を聞きました。ルシアによって魔獣にされたという話……」
「そうでしたか。」
「今日も本当はルシアに会いに来たんです。でも、陛下は森へ行かないでほしいと仰って……」
「だからお2人でいらしたのですね。」
「はい。」
森を歩くデートだったはずだけど、皇帝陛下は聖なる泉へ行ってしまった。何か起きているのだろうか。
「ふあぁ……セレーヌ様に撫でられるとなんでこんなに眠くなるんだろう……」
森の木が静かに揺れて、暖かな日差しが差し込んでいる。私はロシュフォールを撫でながら皇帝陛下の戻りを待っていた。ロシュフォールは目を閉じて休んでいる。静かで穏やかな時間に身をゆだねていると、いつか感じた地鳴りが聞こえてきた。
皇帝陛下も森へ行くことを楽しみにしてくれているのかもしれないと思うと、ちょっと嬉しい。支度を終えて部屋を出ようとすると、扉が叩かれてランスロットさんが現れた。その背後は皇帝陛下が目を伏せて立っている。
「おはようございます、セレーヌ様。素晴らしいデート日和ですね!」
「すごく天気が良くて驚きました。」
「私も驚きました~ははは。」
ランスロットさんが後ろを見ると、皇帝陛下は明後日の方向に目を向けた。
「陛下が結界をお作りしますので、少しそのままでお待ちください。」
ランスロットさんに促されて、皇帝陛下は渋々といった顔で結界を作りはじめた。体に結界を張られるのは初めてだ。体が皇帝陛下の魔力で覆われているみたいで──
「陛下、なんかおかしな魔力送ってませんか?セレーヌ様のお顔が真っ赤なんですけど!」
「そんなことないですから!」
ランスロットさんは楽しそうに笑っている。私はじっとしたまま早く終わって欲しいと願っていたけれど、全然終わらない。
「陛下、もういいです。やり過ぎると、変に目をつけられますよ?早く行ってください。デート楽しんできてくださいね!」
眩しい笑顔のランスロットさんに見送られて、私は皇帝陛下と一緒に森へ向かった。森へ入るとすぐにロシュフォールが駆けて来た。
「セレーヌ様!お加減はいかがですか?」
「大丈夫です。陛下の魔力をいただいてしまいましたが……あの小さな魔獣は元気ですか?」
「はい。あまり出歩かないようにと言ってあります。」
小さな魔獣だから遊びたいだろうけど、もう危険な目には遭って欲しくない。
「……泉を見てくる。セレーヌを頼む。」
「承知いたしました!」
ロシュフォールはピタリと止まって、まるで敬礼をしているかのように姿勢を正した。しかし皇帝陛下の姿が見えなくなると、ロシュフォールは嬉しそうに飛び跳ねた。
「セレーヌ様、ご結婚されたのですか?」
「まだしてません!」
「でもセレーヌ様に陛下の結界が……嬉しいなぁ!陛下が結婚だぁ!」
ロシュフォールのせいでなんかドキドキしてきた。私はロシュフォールの背中を撫でた。
「あっ、やめてセレーヌ様!セレーヌ様に撫でられると眠くなってしまうんですっ……」
ロシュフォールは静かになって体を伏せると、言いにくそうな表情で顔を上げた。
「セレーヌ様……少しお聞きしてもよろしいですか?」
「なんですか?」
「陛下は長らく結婚しないと言い続けておりました。私やランスロットがどんなに説得してもだめで……なぜセレーヌ様と婚約されたのですか?」
「私の家には『結婚しなければ魔力を失う』という伝承があるんです。ですから、結婚しなければ魔力が消えてしまうかもしれないとお話したら、ランスロットさんが1年間の婚約者としてヴァルドラードへ来て欲しいと提案してくださったんです。」
「ランスロットがエルバトリアへ行ったのですか?」
「はい。恥ずかしながら、私が婚約破棄をされた場にランスロットさんがいらして……」
「婚約者がおられたのですね。」
「はい……」
「破棄されて良かったですね。陛下の方が良いと思いますよ、絶対。私が保証します。」
「それは……私もそう思います。」
ロシュフォールの目がキラキラと輝いている。ステファン様に比べたらという意味だったけど、ロシュフォールは違う意味でとらえている気がする。
「陛下からロシュフォールたちの話を聞きました。ルシアによって魔獣にされたという話……」
「そうでしたか。」
「今日も本当はルシアに会いに来たんです。でも、陛下は森へ行かないでほしいと仰って……」
「だからお2人でいらしたのですね。」
「はい。」
森を歩くデートだったはずだけど、皇帝陛下は聖なる泉へ行ってしまった。何か起きているのだろうか。
「ふあぁ……セレーヌ様に撫でられるとなんでこんなに眠くなるんだろう……」
森の木が静かに揺れて、暖かな日差しが差し込んでいる。私はロシュフォールを撫でながら皇帝陛下の戻りを待っていた。ロシュフォールは目を閉じて休んでいる。静かで穏やかな時間に身をゆだねていると、いつか感じた地鳴りが聞こえてきた。