魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

22.悪の精霊の誘い

 アルフォンスは聖なる泉の上で揺らぐ黒い影を見上げた。赤い目を光らせて見下ろすルシアの魔力は、以前よりも強くなっている。

「女の子を連れて来てくれたのね。」

 ルシアは楽しそうに体を揺らしている。アルフォンスは怪訝な顔をした。

「お前が魔獣にしたから人間が来なくなっただけだ。なぜ悪の精霊になったのか教えてくれ。」

 ルシアはピタリと動きを止めた。

「あんたに話すことなんてない。私の気持ちがわかるはずないもの。」
「なぜ女である必要がある?」
「うるさいわね!早く連れて来てよ!」

 ルシアが叫ぶと、泉から水柱が立ち昇った。水の勢いと同様にルシアの魔力が上昇していく。このままでは封印を破られてしまうかもしれない。アルフォンスはルシアに向かって魔力を放った。

「くっ……あんたのせいで……この封印のせいで、私はずっと一人なのよ……!」

 ルシアの魔力は予想以上に強く、アルフォンスは押され始めた。

「ふふっ、封印されてたおかげで私の方が強くなったかもしれないわ。いいの?魔力がなくなっても。」

 脳裏にセレーヌの姿が浮かんだ瞬間、アルフォンスは意識を手放した。
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