魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

23.空飛ぶ魔獣

 ルシアを纏う黒い影がセレーヌの体を包み込み、姿が見えなくると、優しい風が吹いてきて木々を揺らした。森は何もなかったかのように、静かにざわめいている。

「陛下、お身体は大丈夫ですか?」
「……すまなかった。お前たちの魔力は平気か?」
「はい。皆、自力で回復できます。」

 アルフォンスは体を起こしてセレーヌに握られていた手を見つめた。セレーヌの魔力だけでなく、ロシュフォールや他の魔獣たちの魔力まで奪ってしまった──その瞬間、ドクンと心臓が脈打ってアルフォンスは胸を押さえた。

「どうされたのですか?」
「いや……城へ戻る。セレーヌが戻ったら知らせてくれ。」

 アルフォンスは足早に泉を後にした。心臓はドクドクと強い鼓動を打ち続けている。それに、なぜか魔力が体の奥からあふれ出す感覚がある。

(セレーヌや魔獣の魔力を受けたからか?)

 魔力の上昇を抑えようとしても自力ではどうにもならず、体の表面にうっすらと白い煙が立ち昇り始めた。

「何が起きてる?」

 森を抜けたアルフォンスは足を止めた。庭園には、セレーヌが甲斐甲斐しく世話していた花がそこかしこに咲いている。

 ルシアに会わせるつもりはなかった。やはり森へ来るべきではなかった。ルシアに会わなければ、セレーヌが泉へ引き込まれることもなかったのに──するとアルフォンスの体からぼわりと青い炎が吹き出した。
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