魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす
24.精霊の棲家
魔獣となったアルフォンスは、ヴァルドラードの空を優雅に飛んでいた。
「笑えないな。」
魔力が暴発して魔獣となってしまった。これでは悪の精霊になったルシアと同じだ。動物嫌いのランスロットがいる城へ戻るわけにもいかないし、この大きさでは森へ入ることも難しい。それに、いまだに体から炎が上がっていて魔力を制御できない。
しばらく飛んでいると、ドルレアンの山が見えてきた。ヴァルドラードの北側に位置するドルレアンの山は、標高が高く、人の足では辿り着けない秘境の地。
「あそこなら降りられるか。」
ドルレアンの山頂に近づいたアルフォンスは目を疑った。そこには森の泉とは比べ物にならないほど大きな泉があり、たくさんの精霊が飛び交っていた。静かに舞い降りると、精霊たちが集まってきた。
「アルフォンス!ついに魔獣になったんだな!」
声をかけてきた精霊を見た途端、過去の記憶が滝のように流れてきた。
「ドレイク……」
「思い出してくれたか。ははは!」
ドレイクは、子供の頃一緒に遊んでいた精霊。困ったらドレイクに助けを求めて魔力を教わることも多かったが、いつしか会えなくなり記憶から消えてしまっていた。
「みんな集まってくれ!ここにおられるのはヴァルドラードの皇帝陛下アルフォンス様だ!精霊の祝福を!」
ドレイクが叫ぶと精霊たちは一斉にアルフォンスを祝福した。あたりにはキラキラとした精霊たちの振りまく金色の粉が降り注いでいる。呆然としていると、次第に魔力が落ち着いて、するすると体が元に戻っていった。
「これでお前も一人前の皇帝だ。魔力が強いのにいつまでも魔獣に変わらないから、心配していたんだぞ?」
「……?」
アルフォンスは首を傾げた。ドレイクの言葉は、まるで魔獣に変わることが決まっていたかのようだ。
「ドレイク、なぜ俺は魔獣になったんだ?今の精霊の祝福とはなんだ?一人前の皇帝というのは……」
「まさか知らないのか?」
「突然魔力が上昇して止められなくなった。体から煙が出たと思ったら青い炎が噴き出して……」
ドレイクは頭を抱えた。
「こんな大切なことまで教わっていないとは……もっと長く城へ留まるべきだった。何も知らないのに、よくドルレアンへ来ようと思ったな。」
「動物嫌いな側近がいるから城にいることはできないし、森へ入るにも大きすぎる。ここしか行くところがなかった。」
「ヴァルドラードの皇帝は、魔力が限界を超えると翼を持つ魔獣に姿を変える。これは皇帝の宿命だ。」
「皇帝になった人間は必ず魔獣になるということか?」
「そういうことだ。」
「先代皇帝が残した書類には全て目を通した。過去の資料も見たが、そんなことはどこにも書かれていなかった。」
「皇帝が魔獣になることは極秘事項だ。口伝によって受け継がれていく。」
「口伝、か……」
アルフォンスの父・先代の皇帝は遊んでばかりいて、アルフォンスに何も教えなかった。ドレイクがアルフォンスに魔力の使い方を教えていたのは、誰も指導する人がいなかったからだ。
「魔獣に姿を変えた皇帝は、ドルレアンの山を訪れて精霊の祝福を受ける。祝福を受けた者は正式にヴァルドラードの皇帝となり、魔力を意のままに操れるようになる。」
「正式な皇帝というのはどういう意味だ?」
「魔力の質が変わるんだ。心理や思考が魔力に影響を及ぼすようになる。これからは注意した方が良い。特に思いを寄せる人ができた場合……」
突然鼓動がしてアルフォンスは胸を押さえた。
「なんだ、好きな人がいるのか?」
「いや。」
ドレイクは吹き出しそうになった。否定しているのは口だけで、全身から好きな人がいるオーラが溢れている。
「気をつけろよ?お前が一方的に思いを寄せている場合、相手は不愉快な思いをするかもしれない。」
「不愉快……そんなわけないだろ。」
そもそもセレーヌを好きなわけではないのだから。
「笑えないな。」
魔力が暴発して魔獣となってしまった。これでは悪の精霊になったルシアと同じだ。動物嫌いのランスロットがいる城へ戻るわけにもいかないし、この大きさでは森へ入ることも難しい。それに、いまだに体から炎が上がっていて魔力を制御できない。
しばらく飛んでいると、ドルレアンの山が見えてきた。ヴァルドラードの北側に位置するドルレアンの山は、標高が高く、人の足では辿り着けない秘境の地。
「あそこなら降りられるか。」
ドルレアンの山頂に近づいたアルフォンスは目を疑った。そこには森の泉とは比べ物にならないほど大きな泉があり、たくさんの精霊が飛び交っていた。静かに舞い降りると、精霊たちが集まってきた。
「アルフォンス!ついに魔獣になったんだな!」
声をかけてきた精霊を見た途端、過去の記憶が滝のように流れてきた。
「ドレイク……」
「思い出してくれたか。ははは!」
ドレイクは、子供の頃一緒に遊んでいた精霊。困ったらドレイクに助けを求めて魔力を教わることも多かったが、いつしか会えなくなり記憶から消えてしまっていた。
「みんな集まってくれ!ここにおられるのはヴァルドラードの皇帝陛下アルフォンス様だ!精霊の祝福を!」
ドレイクが叫ぶと精霊たちは一斉にアルフォンスを祝福した。あたりにはキラキラとした精霊たちの振りまく金色の粉が降り注いでいる。呆然としていると、次第に魔力が落ち着いて、するすると体が元に戻っていった。
「これでお前も一人前の皇帝だ。魔力が強いのにいつまでも魔獣に変わらないから、心配していたんだぞ?」
「……?」
アルフォンスは首を傾げた。ドレイクの言葉は、まるで魔獣に変わることが決まっていたかのようだ。
「ドレイク、なぜ俺は魔獣になったんだ?今の精霊の祝福とはなんだ?一人前の皇帝というのは……」
「まさか知らないのか?」
「突然魔力が上昇して止められなくなった。体から煙が出たと思ったら青い炎が噴き出して……」
ドレイクは頭を抱えた。
「こんな大切なことまで教わっていないとは……もっと長く城へ留まるべきだった。何も知らないのに、よくドルレアンへ来ようと思ったな。」
「動物嫌いな側近がいるから城にいることはできないし、森へ入るにも大きすぎる。ここしか行くところがなかった。」
「ヴァルドラードの皇帝は、魔力が限界を超えると翼を持つ魔獣に姿を変える。これは皇帝の宿命だ。」
「皇帝になった人間は必ず魔獣になるということか?」
「そういうことだ。」
「先代皇帝が残した書類には全て目を通した。過去の資料も見たが、そんなことはどこにも書かれていなかった。」
「皇帝が魔獣になることは極秘事項だ。口伝によって受け継がれていく。」
「口伝、か……」
アルフォンスの父・先代の皇帝は遊んでばかりいて、アルフォンスに何も教えなかった。ドレイクがアルフォンスに魔力の使い方を教えていたのは、誰も指導する人がいなかったからだ。
「魔獣に姿を変えた皇帝は、ドルレアンの山を訪れて精霊の祝福を受ける。祝福を受けた者は正式にヴァルドラードの皇帝となり、魔力を意のままに操れるようになる。」
「正式な皇帝というのはどういう意味だ?」
「魔力の質が変わるんだ。心理や思考が魔力に影響を及ぼすようになる。これからは注意した方が良い。特に思いを寄せる人ができた場合……」
突然鼓動がしてアルフォンスは胸を押さえた。
「なんだ、好きな人がいるのか?」
「いや。」
ドレイクは吹き出しそうになった。否定しているのは口だけで、全身から好きな人がいるオーラが溢れている。
「気をつけろよ?お前が一方的に思いを寄せている場合、相手は不愉快な思いをするかもしれない。」
「不愉快……そんなわけないだろ。」
そもそもセレーヌを好きなわけではないのだから。