魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

26.お迎え

「悪の精霊になったルシアは人間を魔獣に変えた。どうしたら人に戻せるんだ?どんな魔力を使っても効き目がない。」
「ルシアを元の精霊に戻す必要がある。そのためには、悪の精霊になった理由……ルシアの魔力が暴発した理由を探る必要がある。」

「何度も聞いているが口を割らない。セレーヌが聞き出せれば良いが……」
「あいつが関係していると思っているんだが、あいつも話そうとしない。」

 ドレイクが目を向けた先には、弱々しく消えそうな精霊が岩場の影に座り込んでいた。

「あいつはレオニードと言って、ルシアと恋仲だった精霊だ。毎日森の泉へ行っていたが、ルシアと喧嘩したと言って突然行かなくなった。ルシアの魔力が暴発したのはその少し後だ。」
「悪の精霊になったのは、痴情のもつれが原因だと言うのか!?そんなことのために、俺はどれだけの魔力を……はは。」

 ロシュフォールたちを元に戻すため苦労して魔力を習得し、悪の精霊となったルシアを封印するため、そして泉を浄化するために、今も魔力を使い続けている。アルフォンスは苦笑いをした。

「悪の精霊になるというのはそんな簡単なことではない。お前も魔獣になったのだからわかるだろう?小さなきっかけから大きな思いに変わり、やがて魔力が爆発する。」
「……」

「ルシアの話し相手はセレーヌ様に任せておけ。お前が選んだ相手だ。聞き出してくださる。」

 ルシアが女と話したいと言ったのは、こういったことを話す相手が欲しいという意味だったのかもしれない。アルフォンスはルシアがセレーヌを求めた理由をようやく理解した。

「婚約者様を愛することは悪いことじゃない。だが、セレーヌ様以外の相手も作れよ?」
「俺は親父のようにはなりたくない。」

「先代は突出して遊び人だったが、ヴァルドラードの皇帝は、代々3人以上の皇妃を娶ることが慣例だ。」
「それは知っている。だが3人もいらない。」

「ヴァルドラードの皇帝は魔力が桁違いだ。契りを交わし、魔力を受け渡す相手がお1人というのは、その分相手に負担を強いることになる。」
「だから3人以上というわけか。」

「セレーヌ様のことを考えるならば、魔力を分担した方がいい。」
「……(嫌だ。セレーヌだけでいい。セレーヌだけがいい。)」

「ははは、わかったわかった。今度セレーヌ様を連れて来い。お1人でどれだけ耐えられるのか見てやろう。」
「それは無理だ。」

「なぜだ?高いところはお苦手なのか?」
「魔獣の姿は見せたくない。」

「見た目を気にしてるのか。森へ行ったのなら魔獣を見たことがあるだろう?」
「森にいる魔獣と俺の姿は違う。」
「大きくて飛べるだけだ。魔獣であることに変わりはない。」

 アルフォンスは思い切り眉間に皺を寄せた。

「良く見られたい。嫌われたくないと思うのは、セレーヌ様を思っている証拠だ。だが、考えすぎると魔力が急激に上がり、魔獣に変わるから気をつけろよ。」
「わかった。ありがとう、ドレイク。」

 アルフォンスは魔獣に姿を変えてドルレアンを飛び立った。
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