魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

30.消えそうな精霊

「ドレイク、レオニードに会わせてくれ。ルシアが悪の精霊になった原因は、おそらくレオニードとの関係悪化にある。」
「やはりそうだったか。」

「レオニード?」
「ルシアと恋仲だった精霊だ。喧嘩をして森の泉から戻って以来、落ち込んでいるらしい。」

 ドレイクさんの後を追って森の中を進んでいくと小さな小川があり、近くにある木の根元に精霊が座り込んでいた。体が透き通っていて、今にも消えそうだ。

「なぜ助けないんだ?魔力を与えれば元に戻るだろ?」
「レオニードが拒むんだ。このまま消えるのを待つのだそうだ。」
「そんな……」

 ドレイクさんも悲しそうに肩を落としている。魔力を回復させれば元気になるけど、本人が消えることを望んでいるから手を出さないのだろう。こんな状況で、ルシアと話して欲しいなんて言えるはずもない。

(どうしよう。このままじゃルシアも助けられないし、レオニードも……)

 すると、皇帝陛下は迷いなく小川の中に入り、座り込んでいたレオニードを掴み上げた。

「なっ、なにすんだ!」
「まだ話せるじゃないか。」

「なんなんだよ、お前は!」
「何もしないまま消えるなんて、卑怯だと思わないのか?」

 透明だったレオニードの体は、徐々にくっきりとした輪郭が見えてきた。

「勝手に回復させるな!俺はもう終わりにしたいんだ!」
「ルシアと話をしろ。お前に会えなくなったせいであいつは悪の精霊になった。責任を取れ。」

「やっぱり……やっぱり俺のせいなんだ……!ルシアが悪の精霊になったのは……!」
「悲劇のヒーローを気取るのは解決してからだ。ドレイク、レオニードを城へ連れて帰る。」

「勝手に決めるな……!」
「レオニード、この方はアルフォンス様。ヴァルドラードの皇帝陛下だ。陛下のお力があれば、森へ行ってルシアに会える。消えるのはそれからでも遅くない。」

 ドレイクさんの言葉を聞いて、レオニードは気が抜けたように静かになった。
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