魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

32.モフモフの夢

 皇帝陛下が魔獣になった姿は、大きなドラゴンの姿をしている。大きくて強そうなのに、なぜか尻尾だけはふわふわで柔らかい。私はふわふわをそっと撫でた。

「そんなに好きなのか?」
「ふふふ……はい。」

「魔獣の俺を夢に見るとは……俺は愛されているんだな。」

(ん?)

 私の目に飛び込んできたのは、優雅に横たわる皇帝陛下の姿だった。

「なっ……!どうしてこちらにいらっしゃるのですか!?」

 飛び起きると皇帝陛下はにこやかに微笑みながら体を起こした。

「レオニードの掃除が終わりそうだから呼びに来たのだが、お前がこれを放さなくてな。」

 皇帝陛下は襟元にあるふわふわのファーを指差した。皇帝陛下のマントに付いている装飾を、尻尾と勘違いして撫でていたらしい。

「も……申し訳ありません……」
「終わったようだ。」

 部屋の外へ出た私は、驚いて周囲を見回した。廊下から天井までピッカピカに掃除されている。

「ここまでできれば、泉の浄化もできるだろう。」

 昨夜のレオニードは飛ぶこともままならなかった。一晩でここまで完璧に掃除ができるようになるなんて、すごいとしか言いようがない。

「やっぱり精霊は違うのですね。」
「自分に甘えていただけだろうな。」

 すると、廊下の奥からゆらゆらとレオニードが飛んできた。
 
「どうだ……?俺の……魔力は……」

「よくやった。合格だ。」
「これで……ルシアの……ところに……行け……る……」

 落ちてきたレオニードを皇帝陛下が受け止めると、レオニードからは寝息が聞こえてきた。

「少し休ませてからにするか。」
「そうですね。」

「迎えにくる。支度をしておけ。」

 レオニードを見ていると、皇帝陛下は私の頭を撫でて額にキスが落とされた。

「!?」

 私は部屋に戻ると、両手でパタパタと仰いだ。とんでもなく体が熱い。恥ずかしいけど嬉しいような苦しいような、言葉では表現できない思いが全身を覆い尽くしている。私はベッドに飛び込んで枕に顔を埋めた。
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