魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

4.青いドレス

 目を開けると、窓から眩しい太陽の光が差し込んでいた。私は辺りを見回しながらゆっくり体を起こした。近くのチェストに飾られている花の中に赤い薔薇がある。私は手をぎゅっと握りしめてから、ゆっくり開いた。

(あれは……夢……?)

 廊下で赤い薔薇に魔力を放ったのに、色が変わらなかった。私は目を閉じて深呼吸をした。

「できる……絶対大丈夫……」

 私は赤い薔薇に向かって魔力を放った。すると、薔薇はパッと白色に変わりキラキラと輝いた。

「……!」

 薔薇の色を変えられなかったのは夢だった。安堵と共に熱いものが込み上げて、涙が溢れ出した。

「よかった……まだ使える……!」

 ノックの音がして扉が開くと、母は慌てて私に駆け寄ってきた。

「目が覚めたのね。良かったわ……」

 母は私の隣に座ってそっと背中をさすってくれた。

「大丈夫よ、セレーヌ。あなたの魔力が消えることはないわ。ランスロット様が来てくださったから……」
「えっ……もういらしてるの?」

「昨晩のうちに来てくださったのよ。その時にお父様がサインをしたわ。伝えに行こうと思ったら、あなたが廊下に倒れていたから……」

(倒れていた……?)

「目を覚さないから心配したのよ?」

 昨夜、私の魔力は本当に失われていたのかもしれない。

「使えなかったの。昨日……」
「もう大丈夫よ。ちゃんと使えたでしょう?」

「うん。ちゃんと色が変わったわ。」

 白い薔薇は陽の光を浴びてキラキラと輝いている。

「落ち着いたら支度をなさい。ランスロット様が待ってるわ。」

 皇帝陛下のおかげで魔力を失わずに済んだ。婚約の期間は1年。その間に結婚しなくても魔力を維持できる方法を探そう。涙を拭って窓を開けると、清々しい風が吹いてきて、軽やかな小鳥の声が聞こえた。
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