魔力が消える前に、隣国の皇帝と期限付きの婚約を交わす

35.皇妃の証

「もう大丈夫なのですか?」
「……あぁ。」

 青い炎に包まれた時の苦しそうな皇帝陛下の姿が目に浮かぶ。意思とは関係なく魔力が上昇してしまうのは、体に負担がかかるのではないだろうか。

「もう嫉妬しないでくださいね。」
「お前次第だ。」

 私次第だと言われても、さっきは挨拶を交わしていただけだ。カッコいいからちょっと目を奪われてしまったのは事実だけれど。皇帝陛下はレオニードにも嫉妬していた。こんなことを続けていたら、いつまた魔力が上がってしまうかわからない。

「どうすれば魔獣にならずに済むのですか?」
「魔獣は嫌なのか?」

「そうではありません。苦しそうな御姿は見たくないんです。」
「お前がいればなんとかなる。」

(私がいれば……?)

 さっきみたいに抱きしめれば落ち着くということだろうか。だとしたら、あまり嫉妬させないように最大限配慮して、万が一魔力が上昇してしまったら抱きしめればいい。

「わかりました。では、嫉妬するのは私がいるときにしてください。」
「抱きしめるのは平気なのか?これくらいのことであんなに動揺していたのに。」

 皇帝陛下はしれっと私の手を取ってキスを落とした。至近距離で視線を向けられて、私の顔は火が出たように赤くなった。

「今は、そういう場面じゃないのに!」

 手を振りほどこうとすると、皇帝陛下は私の手をぐっと握った。

「放してください!」
「結婚してくれ、セレーヌ。」

「えっ…………!!?」

 手に重みを感じて視線を落とすと、左手には虹色の宝石が煌めく指輪がはめられていた。

「これは皇妃の証。皇帝が正妃となる相手へ贈る決まりになっている。」

 じっと指輪を見ていると胸の奥から熱いものがこみ上げてきて、虹色の宝石がみるみる涙で歪んでいく。

「俺の妃はお前にしか務まらない。そばにいてくれ。」

 指輪の近くに涙が落ちて、私は皇帝陛下のぬくもりに包まれた。
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