焦がれ、凍てつく蜜月〜拗らせ御曹司と冷遇された社長令嬢の政略結婚〜

第十七章:拗らせ御曹司の溺愛

陸が奈緒への愛を自覚し、長年の誤解が解けて以来、彼の奈緒に対する態度は冷徹な御曹司から拗らせた溺愛夫へと劇的に変わった。彼は、過去の自分の冷酷な振る舞いを償うかのように、奈緒を四六時中気にかけ、過剰なほど独占欲を剥き出しにした。

奈緒は、その変化に戸惑いつつも、幼い頃から求め続けてきた彼の愛情に、満たされていくのを感じていた。
ある日の昼食時。奈緒が大学時代に立ち上げた慈善プロジェクトの打ち合わせをオンラインで終えた直後だった。
「今の男は誰だ」陸は、奈緒のノートパソコンの画面を覗き込むようにして尋ねた。

「大学の先輩よ。ボランティア団体のことで打ち合わせをしていたの」
「なぜ、そんなに親しげに笑っていた」陸の表情は、一瞬で険しくなる。

「仕事の話をしていただけよ。陸、嫉妬?」奈緒はわざとからかうように尋ねた。
陸は、奈緒の背後に回り、彼女の首筋に顔を埋めた。その息遣いは熱い。

「嫉妬だ。君が、僕以外の男と話すのも、笑うのも、全て不愉快だ」
彼は、奈緒の耳元で囁いた。「五年間、君が僕のものではないと思い込んでいた苦しみを、君は知らない。もう二度と、君を手放したくない。
君の笑顔は、僕だけのものだ」

奈緒は、彼の不器用で、まっすぐな独占欲に、愛おしさを感じた。彼は、五年間分の我慢を、今、一気に爆発させているのだ。
「仕方ないわね。拗らせた夫を連れて、次の打ち合わせに出かけるか」

「僕が行くのか?」陸は戸惑いの色を見せた。
「ええ。あなたが嫉妬で仕事を手に付けられなくなるのは困るもの。あなたが私を正式な妻として見せつけてくれれば、誰も余計なことは考えないでしょう?」

奈緒は、彼の独占欲を逆に利用して、二人の関係を公にしようと試みた。陸は、一瞬の逡巡の後、満足そうに頷いた。
「わかった。僕の妻を、二度と誰にも近づけさせない」
陸は、会議室でも、奈緒の隣に座り、他の参加者が奈緒に話しかけるたびに、冷たい視線を送った。その態度は、明らかに「この女は自分のものだ」と宣言していた。
会議が終わり、二人が新居に戻る車の中。

「今日のあなたの態度は、ひどかったわよ。取引先の方が怯えていた」奈緒は呆れて言った。
陸はシートベルトを外しながら、奈緒の顔を両手で挟んだ。
「怯えればいい。君が、僕の妻であることを、周囲に徹底させる必要がある」

そして、陸は奈緒に深くキスをした。そのキスは、周囲に対する牽制と、奈緒への愛の確認を兼ねていた。
「奈緒、僕は君を愛している。形式上の結婚など、どうでもいい。君だけが、僕のすべてだ」

奈緒は、彼の溺愛を受け入れた。彼が五年間抱えてきた誤解と苦悩は、今、奈緒への愛となって、彼を突き動かしている。
拗らせた御曹司の愛は、時に常識を逸脱し、過剰だったが、それは奈緒が最も欲していた、純粋で、絶対的な愛だった。

二人の夫婦としての絆は、陸の激しい溺愛によって、強固なものになりつつあった。しかし、奈緒の心にはまだ、美咲という存在との完全な清算が残っていることを知っていた。この愛を本物にするためには、過去の清算が不可欠だった。
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