ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

03 狼筋の男

冷たい冬は終わり春が来た。

白やピンク、紫のライラックの花々がケンプテン大公国中で満開になった頃。

大公国の城下町の石畳の大通りを毛艶の良い馬に乗り全身を鎧で纏った騎士団が、長い行列をなして城に向かって行進している。

行列の中心には黄金の馬車が一台。

馬車の窓は漆黒のベルベットのカーテンで覆われていて、中に乗っているであろう裕福で高貴な人物の姿を窺い知ることはできない。

そのうしろにはたくさんの金銀財宝が乗せられた荷台も連なっている。

あまりの豪華さと物珍しさに見物している人々が口々に噂する。

「なんだい、この行列は」

「シュヴァルツヴァルトの管理者が乗っているらしい」

「黒い森の管理者だって? じゃあブラックオパールの瞳を持つ生贄花嫁を探しているとかいう狼筋の男かい?」

「ああ。それにしてもすごい行列だ。狼筋の男がこんなに品があって金持ちとは思えないが」

「なんだって大公様の城に向かってるんだい?」

「召使の中にブラックオパールの瞳を持つ娘がいたんだとよ」

「そう言えばこの前、この通りでそんなような娘が目撃されてたな」

「ブラックオパールの瞳の娘なんて不吉でしょうがないよ。国が滅びたら堪ったもんじゃない。そんな娘を生贄花嫁にしてくれるっていうんだから、ありがたいもんだ」

そんな心無い人々の冷やかしなど気にかけることもなく、荘厳な行列は城の外堀に下ろされた橋桁を渡り城門をくぐって行った。
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