ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

03 ドラゴンの文字の本

お払い箱にされすぐにでもカミルの城を去りケンプテン大公国に帰ることにしたリーゼは、朝一番でザシャに馬車の手配を頼んだ。準備ができるまでの間、ラーラに手伝ってもらいながら自室で荷造りをした。

「ラーラ、短い間だったけど、本当にいろいろありがとう。毎日とっても楽しかったわ」

「あたし、リーゼ様が生贄花嫁にならないのは嬉しいけれど、カミル様は本当にリーゼ様のことが好きなんだと思っていました。それなのに、なんであんな人と」

「これでいいのよ」

「あたし、あのイルメラっていう人大キライ。カミル様とかザシャ様の前ではいい顔してるけど、あたしたちの前ではすごく意地悪で横柄なんです。なんだかいつも怒ってるし」

「イルメラは私とは違って生まれながらの公女様だから仕方ないのよ。どうか仲良くしてあげて」

「リーゼ様がそう言うなら……」

「元気でね、ラーラ」

「リーゼ様!」

飛び跳ねて抱きついてきたラーラをリーゼは優しく抱き締めた。

馬車の手配が完了し城の外に行くと、ザシャは立派な馬車と護衛だけでなく父親であるケンプテン大公とリーゼのためにたくさんの贈答品も用意してくれていた。

見送りに来てくれたザシャと別れの挨拶をする。

「ザシャ様、今まで本当にありがとうございました。心から感謝しています」

「僕の方こそリーゼと会えて嬉しかったよ。どうか、カミルも辛い事をわかってあげて。昨夜、一人で大声を上げて泣いていた」

「えっ?」

「他の狼筋の耳を憚らずにね。僕の部屋まで泣き声が聞こえたよ。僕が知っている限り、カミルが大声で泣いたのはこれで二回目だ。一回目は両親を亡くした時」

「いつのことですか?」

「カミルが7歳の時。森に無断で侵入した人間の病原菌が原因でね。この森にはない新種の菌だったから免疫がなかったんだ」

「そんな……」

「だからカミルは人間が嫌いなんだ。自分自身も人間に銃で撃たれて重傷を負っているし。その時に助けてくれた君を失うのは、カミルにとっても辛いことなんだ。泣くことなんて滅多にないのに、あんなに大声を上げて泣くくらいに」
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