ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

08 それぞれの決戦前夜~カミルとザシャ~

イルメラが出て行ったあと、しばらくするとザシャがカミルの居室にやってきた。

「体調はどう? カミル」

「少し休んだらだいぶ良くなった」

カミルは横になっていたソファーから起き上がると座り直した。

「いいよ寝てて。無理しないで」

「大丈夫だ。明日の儀式の準備は終わったか?」

「全部完了。湖畔の櫓も焚火台も設営した。あとは夜になるのを待つだけだよ。そっちはどう? 気付かれてない?」

「ああ。あの女は俺に夢中だ。お前とラーラに嫌われているのは気付いていたが。でもそれでいい。その方がリアルだからな」

「ちゃんとカミルの言い付けどおり、僕はあの女に抱いているそのままの感情で接しているからね。無理していい顔しても逆にバレちゃうから。ラーラは単純に嫌いみたいだけど」

「ラーラはリーゼと仲良くしていたからな。元々黒蛇筋は他の獣筋からも嫌われ者だった。無意識に赤狐筋の血もそうさせるのかもしれない」

「でもあの女が花嫁候補としてこの城に来た時のリーゼと言ったら、本当にかわいそうだった。みんなに見放されてあんなに人目も憚らずに泣いて」

「それを想うと俺の心も狂いそうになる。たくさん泣かせてしまった。たくさん傷付けてしまった……」

「新しい生贄花嫁が見つかったなんて嘘までついたし。ここまでしなきゃいけないのかなって何度も気持ちが揺らいだよ」

「俺だってそうだ。しかしすべてはリーゼの命を護るため。そのためなら一時の感傷など捨てねばならない。たとえ深く恨まれることになろうとも」

「せっかくリーゼと再会できて両想いになったのに。また離れ離れになるなんて」

「今だけだ。ヴェンデルガルトはリーゼの命と引き換えに生贄花嫁の儀式を終わらせようとしている。リーゼを護るにはこの城から離してこの件に関わらせないことが先決だった」
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