ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!
最終章

01 生贄花嫁の儀式Ⅰ

爾の時は来た。122年に一度の紅の月の夜に執り行われる生贄花嫁の儀式の日。

夕方になり太陽が西の空を赤く染めて沈みはじめると、東の空から満月が昇って来た。太陽が沈みきっても満月は琥珀色のままでとても紅色には見えない。

城の居室の鏡の前で、ヴォルフ家当主の正装に身を包んだカミルは決意していた。

必ずドラゴンとの交渉に打ち勝ちこの呪わしき生贄花嫁の儀式を終焉させる。そして、すぐにリーゼを大公国に迎えに行き結婚する。たとえフリッツのものになっていようとも、その時は力尽くで奪い、攫って行く。

生贄花嫁の儀式は満月が天頂に来た時に執り行われる。それまでの間、食堂で一堂が会して晩餐会が開かれた。ヴォルフ家一族と婚約者のイルメラ、そしてイルメラを心配して大公国からやってきた母親のベルタも参加した。

一族が皆口々にイルメラ母娘の美しさを褒め称えたので二人は上機嫌だった。

カミルは話には加わらず冷静さを保ちながらも、最後までイルメラ母娘とヴェンデルガルトの動向には警戒しなくてはと自戒していた。きっと何か嗾けてくるはず。すると案の定、ベルタが話しかけてきた。

「そういえばカミル様、新しく生贄花嫁になったブラックオパールの瞳の娘はどこにいるの?」

ほら来た。やはりこの女は油断ならない。

「逃げられると困りますからね。とある場所に監禁しているのです」

カミルはにこりとして笑顔で答えた。

「監禁ですって? まあなんて怖ろしいこと」

「あとでザシャが現地に連れて行きますから。ご心配なく」

満面の笑みでカミルが牽制したので、それ以上ベルタは聞いてこなかった。

なぜカミル1世はこのような黒蛇筋の妖女に誑かされたのであろうか。先祖と雖も今更ながらに同じ名を持つ者としてその愚かさに苛立った。
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