ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

05 カミルの城

「着いたぞ」

カミルに起こされて目を覚ましたリーゼが黄金の馬車から降りるとそこは、広葉樹や針葉樹に囲まれた黒い森の中にある荘厳な城の前だった。

見上げるような塔が幾つもありケンプテン大公国の城など比にもならない。

カミルにエスコートされ城の入口に行くと、大勢の家臣たちと共にカミルと同じ青い瞳を持つ金髪の美しい青年が出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、カミル様」

「ご苦労だ、ザシャ」

ザシャと呼ばれた青年は左目に包帯を巻いているリーゼを見た。

「こちらがリーゼ様ですね。はじめまして。僕はカミル様にお仕えしているディートフリート・ザシャ・フォン・ヴォルフ。どうぞ気軽にザシャとお呼びください」

ザシャはリーゼの左手を取ると軽く手の甲にキスをした。

気のせいか一瞬カミルがザシャを睨んだような気がした。

「ザシャは俺の従弟で弟のような存在だ。仲良くしてやってくれ」

「私の方こそ、よろしくお願いします」

慌ててペコリとお辞儀したリーゼに、ザシャはやさしく微笑んでくれた。

城の中に案内されて入ると大理石の床の広大なホールがあり、赤い絨毯が敷き詰められた上階への大階段が複数ある。

そのうちの一つの階段を昇り、リーゼは自室へと案内された。

「ここがお前の部屋だ。自由に使うがいい」

両開きの扉を開け中に入るとまず目に飛び込んできたのは、大きな窓があるバルコニーだった。

その眼下には新緑の木々の森が広がり、彼方には白雪を頂いた山々の美しい稜線が見える。

ずっと監禁塔の小さな窓からの四角い空しか見ることができなかったリーゼにとって、太陽の光が差し込む明るい部屋で果てしなく広がる大空や雄大な自然を見れることは解放を意味した。

もう泣かないと決めたのに右頬にまた涙が流れる。

でもこれは悲しみの涙ではなく感動の涙だった。

「なぜ泣く?」

訝しげなカミルに問われたリーゼは、涙を拭って笑顔で答えた。

「嬉しいんです。こんなに美しい景色を見るのははじめてだから」

言葉を失ったカミルが切なそうな顔をした。

「喜ぶのはまだ早い」
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