ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

06 森のはずれに棲む年老いた魔女

カミルは居室でロックのウイスキー片手に後悔していた。リーゼにどんどん惹かれていってしまっていることを。

このままではヴォルフ家の当主としての責務を果たせなくなる。それなのにリーゼを愛おしく思う気持ちを止められない。リーゼに会いたくて話したくて触れたくて……でもそうすればそうするほどもっと止められなくなって、リーゼを自分のものにしたくなる。

ウイスキーのボトルを全部空けた時、ザシャが入って来た。

「飲みすぎだよ、カミル。あーあ、まるっきり恋煩いじゃないか」

「恋煩いか。俺としたことが」

「仕方ないさ。10年も探し続けて、想い続けた人なんだから。僕も一緒に探してたからその気持ちはわかるよ」

「どうしてこんな運命になってしまったのだろう。どうしてもっと普通に出会えなかったのだろう。いや、こんな想いをするなら最初から、出会わなければよかったのかもしれない」

「重症だねえ」

「笑うがいい」

「心配してるのさ」

「ザシャ、俺は今回で生贄花嫁の儀式を終わらせようと思っている」

「いいと思うよ。でもリーゼはどうするの? 最期の生贄花嫁にするってこと?」

「それでは意味がない。儀式を執り行わなくても我が一族も、管理する森も、そしてリーゼも救える、何か回避できる方法を探す」

「回避? たとえばリーゼ以外のブラックオパールの瞳を持つ娘を探すとか? でも散々探したけどリーゼしか見つからなかったじゃないか」

「だから回避だ。紅の月の夜の生贄花嫁の儀式は122年に一度。お爺様でさえ前回の儀式の時には生まれていない。当家が管理する森の中で122年前に唯一生きていたのは……」

「ヴェンデルガルト! 森のはずれに棲む年老いた魔女」

「正解」

「でもあの天邪鬼の魔女が何かを知っていたとしても、すんなりと教えてくれるとは思えないよ」

「俺もそう思うが何もせずにいるよりはマシだろ? 明日早速行ってみる」

「一緒に行こうか?」

「いや、お前は儀式の準備をしてくれ。お爺様達に回避しようとしていることを気付かれて妨害されても面倒臭いからな」

「了解」

ザシャが部屋を出るとカミルはグラスの中の氷を指で回し、残りのウイスキーを飲み干した。
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