ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

09 懊悩

カミルは話の途中で席を立ってしまったことを、リーゼの部屋の外の廊下で立ち尽くして自省していた。

仲良く楽しそうに思い出話をする二人につい苛立ち、感情的になってしまった。もう一度部屋の中に戻って謝ろうか?

謝ることにしたカミルが部屋の扉のノブを握った時だった。狼筋は耳がいい。聞く気がなくともフリッツがリーゼに告白するのを聞いてしまい、そっとノブから手を離してその場を去った。

やはりフリッツはリーゼのことが好きだった。リーゼのはっきりとした気持ちはわからないが、フリッツを信用していることは確かだろう。二人の間には幼い頃から共有している思い出や感情がある。それに引き換え俺は……。

カミルは上着の袖を捲って左腕の傷痕を見た。本当は自分を一目見たらリーゼはすぐに、あの時の狼の子だと気付いてくれるという期待を抱いていた。

しかしそれはまず、大公国の城の謁見の間ではじめて会った時に破られた。

次に、湖の畔でこの左腕の傷痕について話した時も駄目だった。

そして今、狼の子の話が出ても自分だと気付いてくれなかった。フリッツとのことはあんなに何もかも憶えているのに。

カミルはフリッツに対する嫉妬心で冷静でいられなくなっていた。今まで他人など羨んだり嫉妬したりなど一度もなかったのに。

自分自身に苛立ちながら居室へ戻ると、イルメラが扉の前で待っていた。

「カミル様! お待ちしておりました」

「いつの間に来たんだ?」

「ついさっきです」

「何か用か?」

「あの、少しお話ししたいことがあって」

カミルはイルメラを居室の中に通し、ソファーに座らせた。

「話って?」

「リーゼのことです」

「リーゼの?」
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