ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

10 婚約指輪の秘密

カミルとフリッツとのことで眠れなかったリーゼは薄い夜着にガウンを羽織り、以前にカミルの許可を得て自由に出入りを許されている城の別棟の図書室へと向かった。

監禁塔で幽閉されて自由のない生活をしてきたリーゼにとって、読書は唯一の楽しみであり外界との懸け橋でもあったので図書室にいるだけで安心できた。

カミルの城の図書室の数々の所蔵本と貴重な資料は大公国の比ではなく、自ずとヴォルフ家の歴史の長さを感じる。

今日は何の本を読もうかと本棚を吟味していたリーゼは、並んでいる本の奥に一冊の大型本が隠すように置いてあるのを見つけた。その本を取り出して開くと中のページがくり抜かれていて、その中にはさらに古い一冊のタイトルのない黒い本が入っていた。いや、黒い本ではなく、元々朱色だったものが年月の経過により黒ずんだようだ。

ページを捲るとそこには見たこともない古い文字が書かれていた。数多の古い本も読んできたリーゼでも解読できない文字だ。パラパラとページを捲っていくと所々美しい挿絵がある。文字は読めなくても挿絵を見て楽しもうと、リーゼは本を持って書斎机に座った。

何枚かある挿絵のうち、ある一枚の挿絵に目が留まった。

満月の夜の湖畔の絵。この湖には既視感がある。そうだ、カミルに連れて行ってもらった紅の月の夜に生贄花嫁の儀式を行う湖だ。その畔に焚火が焚かれた櫓が組まれていて、一組の男女が結婚式をあげている。その二人の頭上には宙に浮かんだドラゴンが口から炎を吐き出していた。そして驚いたことに、そのドラゴンの手の指には、今もリーゼが左手の薬指に嵌めている深紅のルビーの婚約指輪と同じ指輪が嵌められていた。

まさか同じ指輪をドラゴンが嵌めているなんて! 

なぜ? どうして? 
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