ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

03 俺の花嫁

ニクラス5世の誕生日当日の夕刻を過ぎたころ。

来たばかりの嵐の中、カミルが森の獣筋の貴族達との会議から帰城すると、ザシャが血相を変えて走って来た。

「大変だ! カミル!」

「どうした?」

「リーゼが森へ行ったまま、帰って来ない」

「何!?」

食堂に行くとニクラス5世をはじめヴォルフ家の一族と、イルメラやフリッツが沈痛な面持ちで集まっていた。

長テーブルの上には生クリームでデコレーションだけされている、飾りつけが完成していない7段のバースデーケーキが置かれている。

「一体、どうしたんだ?」

「リーゼがバースデーケーキに飾る木苺を摘みに行ってまだ帰って来ないんです。嵐がくるから行かないでって必死に止めたのですが。すぐ戻ってくるからと言って……」

泣きそうな顔で心配しているイルメラが言う。

「いつ出掛けたんだ?」

「4時過ぎです。その頃はまだ青空だったのに、あっという間に嵐がきてしまって」

「4時過ぎならたしかに遅すぎるな」

「何かあったのかもしれない。僕が探しに行ってきます」

強い雨が打ちつけている窓の外を見ていたフリッツが言った。

「いや、この嵐の中で人間が行ってもミイラ捕りがミイラになるだけだ。俺が行く」

フリッツを止めたカミルがそう言うと、ザシャの父親のエッカルト公爵が口を開いた。

「待て、カミル。この嵐ではリーゼの匂いも雨と風で流されてしまってどこに行ったかわからない。森の動物たちも皆避難して隠れているから協力も得られないぞ。いくらお前でも探し出すのは無理だ。嵐が過ぎ去る朝まで待とう」

その言葉にカミルは笑顔で言った。

「大丈夫です。心配しないでください」
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