ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

02 縁談

それから程無くして冬の寒さが和らぎだしたある日の午後。

リーゼは料理長の言い付けで城下町の市場に食材の買い出しに出掛けた。

今まで一度も城の外への買い出しなど言い付けられたことはなかったが、はじめての外出にリーゼの心は踊っていた。

城門から出て石畳の路に沿って野原を歩いていくと、建物や住宅がずらっと立ち並んでいるのが見えてきた。

市場では食品や服飾品、生活用品など様々な店や屋台が軒を連ねていて、たくさんの人々が活気に溢れて生活をしている。

城下町にこんなにたくさんの人々が住んでいるなんて知らなかったし、この活気溢れる豊かな国を平和に統治している父親のケンプテン大公への尊敬がさらに深まった。

市場の果物屋で目当ての食材である林檎を大量に買い付け、前が見えなくなるほどの紙袋にいっぱいの林檎を抱えて城へ戻ろうと歩いていると誰かとぶつかってしまった。

抱えた紙袋の中から2、3個林檎が落ちて石畳の上を転がっていく。

「ごめんなさい!」

咄嗟に謝ったリーゼが前を見ると、そこには髭面の怖そうな大男が立っていた。腕には髑髏の刺青が入っている。

「おい姉ちゃん、痛えじゃねえか。どこ見て歩いてるんだよ。俺の腕にぶつかったぜ」

「すみません。前がよく見えてなくて。本当にごめんなさい」

「そんな左目に包帯なんて巻いてるからよく見えねえんだよ。どうしたんだよ、その左目は?」

リーゼは左目を包帯の上から手で隠した。

「えっと、その、少し怪我をしていて」

「どれ、見せて見ろ」

大男はリーゼの包帯を取ろうとした。

「やめてください!」

リーゼは抵抗したが林檎が大量に入った紙袋を抱えていたし、大男に敵うはずもない。

包帯は無残に剥ぎ取られ、リーゼの左目の瞳は露わになってしまった。

「うわあ! なんだこの目は! おいみんな見てみろ!」

大声で大男が叫んだので周りにいた人々が皆振り返ってリーゼの顔を見た。

「この娘、ブラックオパールの瞳を持つ娘だぞ!」
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