ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

04 止められぬ想い

カミルが管理する森の一番はずれ。

一日中太陽の光が当たらない苔生す岩場の隙間にできた小さな洞穴の中で、リーゼはずぶ濡れになったまま寒さに震えながら膝を抱えて泣いていた。

せっかくイルメラもあのお婆さんも忠告してくれたのに。言うことを聞かなかった愚かさが身に沁みる。こんな怖ろしいことになるなんて。

あの木こりの家での出来事を思い出すだけで、寒さのせいではなく震えが止まらなくなる。この嵐の雷の稲光も轟音も暴風雨もすべてが怖くて、もう顔をあげることもできない。この暗闇も何もかもが怖くて、泣くことしかできない。

膝に顔を埋めて泣いていると、洞穴の外からひたひたと水に濡れた足音が近付いてくるのに気が付いた。顔を上げて身構えて足音がする方向に全神経を集中させる。得体の知れない恐怖に身も心も限界だった。もうこれ以上の恐怖には耐えられない。

洞穴のすぐ外で足音が止まった。

きっと見つかったに違いない! あまりの恐怖で声も失くし気絶しそうになった時、今までで一番大きな雷鳴が轟いた。そして激しい稲妻の光が照らし出したのは、一匹の黒い大きな狼だった。

「カミル……様?」

黒い狼は洞穴に入ると身体を激しく揺らして漆黒の被毛についた水を弾き、リーゼに駆け寄ってその顔に長い鼻を当てた。

「カミル様! 私……私……」

リーゼはカミルの身体に抱きつくと、今までどんなに辛いことがあってもこんなに泣いたことはないという大声で泣いた。

涙を流したままカミルの身体をずっと抱きしめ撫でていると、カミルの身体が一糸纏わぬ人の姿に戻っていることに気付いた。着ていたローブを脱いでカミルの身体にかける。

カミルはリーゼの胸の中に抱かれたまま上目遣いでリーゼを見つめた。稲光で見えるいつもより瞳孔が大きく拡がった青い瞳は潤んでいて、見ているリーゼまで切なくなる。
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