ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

06 黒幕

嵐の夜リーゼと一緒に過ごした洞穴から城へ戻り、居室の風呂に入って身なりを整えたカミルは、休む間もなくニクラス5世に呼び出された。

「カミルよ、なぜだ? なぜあの娘に己の命を投げ捨てるまでして執着するのだ? たしかにあの娘は生贄にはふさわしくないほど善良な娘だ。しかし今まで他人に振り回されることなど一度もなかった、孤高の存在のお前がなぜなのだ?」

カミルは上着の左袖を捲ると左腕の深い傷痕を見せた。

「この時、俺の命は終わっているはずでした。しかし、リーゼが助けてくれたおかげで俺は今生きている。俺の命は、彼女のものなのです」

「あの娘が、お前を助けた娘だったのか!?」

「はい」

「ああ、なんという皮肉な運命……命の恩人と生贄花嫁が同じ人物など……」

そこまで言ってニクラスは何かに気付いたのか、はっとしてカミルを見た。

「まさかお前! 生贄花嫁の儀式を執り行わないつもりか!?」

カミルは無表情のまま何も答えなかった。

「ああ、なんという愚かな……よいか、カミルよ。お前がブラックオパールの瞳を持つ娘に惑わされては本末転倒なのだ。今は執行猶予中のようなもの。ここでまた支配者に逆らえば、我がヴォルフ家も管理する森も終わりだ」

「生贄花嫁としてリーゼの命を支配者に捧げるのならその時は、俺も俺の命をリーゼに捧げます」

「ならぬ! 決して生贄花嫁のためになど命を賭してはならぬ!」

「もう決めたのです。俺の決意は変わりません。リーゼを己の手で殺す報いを、己の命で償います」

カミルもこれではまるで、ヴェンデルガルトが言った通りになってしまうと思った。

ニクラスは天を仰ぎ大きくため息をついた。
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