ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

08 蛇悪なる者たち

嵐の翌日。イルメラはカミルの城でフリッツが部屋に来て一緒に帰国するよう言われた時、真っ向から反対した。

「嫌よ! あたしはまだ諦めない。カミル様との距離もだいぶ近付いてきたのよ。この調子で頑張ればきっと結婚できるわ。フリッツだってリーゼをもう少しで落とせそうなんだから頑張ってよ!」

「いや、僕達の負けだ。あの二人の間には、もう誰も立ち入ることはできない」

「何を言ってるの? リーゼはただの生贄花嫁よ」

「とにかく今すぐ帰国しないなら、木苺のことをカミル様たちにバラすよ?」

「なんですって?」

「あの日、君が籠を持って中庭を歩いている所を偶然見かけたんだ。その時は何も思わなかったけれど、君が木苺を隠してわざとリーゼを森へ行かせたんだね」

「違うわ!」

「たとえ違うとしても僕と帰国しないなら、僕はカミル様たちに君のせいだったと言うよ」

「あたしを脅迫する気?」

「僕だってリーゼと結婚できないなら君と結婚できないと困る。とにかく今は一緒に帰るんだ。わかったな?」

それまで見たことないフリッツの迫力にイルメラは逆らえなかった。

ケンプテン大公国に渋々連れ戻されたイルメラは、カミルのすべてが忘れられなかった。

舞踏会で一緒に踊ったあの大広間で、自分だけを見つめてくれた美しい青い瞳。細身なのにたくましくてひきしまった広い胸。美しいだけではない。地位も名誉も財産も何もかも持っているカミルのすっかり虜になってしまった。

しかしカミルは美しい自分より醜いリーゼのことばかり気にかけているように見えた。生贄花嫁に逃げられては困るからなのだろうが、舞踏会の時にはバルコニーでフリッツとリーゼの取り合いのようなことまでしていた。

何より大公国では召使同然だったリーゼが、カミルの城では広い部屋や高価なドレスを与えられ、専属のメイドまでついて贅沢な暮らしをしていた。さらには、自分が好きなイイ男二人から、まるで高嶺の花のようにお姫様扱いを受けているのが許せなかった。
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