ツンデレ当主の生贄花嫁になったら愛されすぎたので私は生贄になりたいんです!

10 ブラックオパールの瞳

リーゼと別れたあと、カミルはザシャを居室に呼んだ。

「遅くなってごめん、カミル。何? 話したいことって」

「生贄花嫁の儀式の準備は進んでいるか?」

「お爺様達に怪しまれないようにちゃんとやってるよ。湖畔に儀式の焚火台の櫓を組んでいるところだ」

「そうか。実はさっき、リーゼを俺の展望台に連れて行った。青い月を見せるために。そこで青い月の光を浴びながらリーゼの瞳を見つめた。深く深く」

「なんだ、惚気話か。はいはい、それで?」

冷やかしたザシャをカミルが制止した。

「最後まで聞け。その時に気付いたんだ。普段とは違う青い光に照らされて、奥まで見えたリーゼの左目のブラックオパールの瞳が、生まれつきのものではないことに」

「なんだって!?」

「リーゼの左目のブラックオパールの瞳はよく見ると斑だった。その斑の隙間に見える下地は右目と同じアメジスト色。つまり、元々紫色の瞳をブラックオパールに変えたと考えた方が自然だ」

「一体どうしてそんなことに?」

「わからない。だが、イルメラの母親のベルタはリーゼの母親である大公妃専属の召使で、リーゼの母親が亡くなった出産時も立ち会っていた」

「じゃあ、イルメラの母親の仕業ってことか?」

「ヴェンデルガルトもリーゼの瞳を見た時すぐに気付いていたんだろう。あの時は深く考えずに聞き流したが、リーゼのことを『あんな瞳になって可哀そうな子だ』と言っていたからな」

「イルメラの母親ならやりかねないかも。だって、娘のイルメラは嵐と見せかけて木こりにリーゼを襲わせるくらいだから」

「そう考えていくと気になることがある。イルメラに告白された時、いつの間にか俺の部屋の前に来ていて不意を突かれ驚いた。狼筋は耳がいい。普通なら足音が聞こえて事前に誰かいると気付くはずなのに」

「そういえば! 舞踏会でカミルと踊っていた時、イルメラの足音はまったく聞こえなかった! いくらダンスが上手とは言えあんなハイヒールを履いていたのに」

「この前図書室で黒蛇筋についての本を読んだのを思い出したよ。彼らは足音がしないらしい。元々黒蛇なら足がないからな」
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