甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~
第二話 金木犀が香る夜に
定時ピッタリに退社した結香は、浮き立っていた。
今日は金曜日だ。明日からは連休になる。特に予定は入れていないが、買い物にでも行こうか。映画を見に行くのもありだし、気になっていたカフェに行ってみるのもいいかもしれない。
明日からの休日に思いを馳せながら、出入り口で社員証をかざしてビルから出る。
夏が過ぎ去り、季節はすっかり秋めいてきた。
夜風にのって、微かに金木犀の香りがする。結香の好きな香りの一つだ。
スマホを見れば、現在時刻は十八時を過ぎたところだった。どうせならどこかで夕食を済ませてから帰るのもいいかもしれない。
通行の邪魔にならないよう端に寄り、スマホで近場のお店を検索しようとしたタイミングで、声をかけられる。
「やぁ、お疲れ様」
「……お疲れ様です」
「そこまで露骨に嫌そうな顔をされるのも新鮮だな」
声の主は優雅だった。昨日「また明日」と言われたが、結局社内で見かけることはなかったなと、そう思っていたのだ。
退勤してから顔を合わせることになるのは想定外だった。