甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~
第五話 勘違いの連鎖に終止符を
業務を終えて階下に向かうエレベーターを待っていれば、廊下の右方向から優雅が歩いてくる姿を見つけた。今日は一人のようだ。
目が合えば、にこやかな顔で片手を挙げてくれる。しかし結香は、不自然に目を逸らしてしまった。
停まったエレベーターから、乗っていた社員が下りてくる。空になったエレベーターは上階に向かうものだが、優雅と鉢合わせるのが気まずい結香は、そのエレベーターに乗りこんだ。閉の釦を押せば、扉はゆっくりと閉まって――
「やぁ。お疲れ様、白石さん」
――は、くれなかった。
手を滑り込ませてきた優雅によって、扉が完全に閉まり切ることはなかったのだ。優雅は当然のように乗りこんでくる。
「あの、このエレベーターは上に向かうものですけど……」
「あぁ、分かっている」
「真宮さんも、帰られるんじゃないんですか?」
「俺も、ということは、白石さんも帰るつもりだったんじゃないのか?」
「それは……」
「俺を避けたんだろう?」
エレベーターが停まった。結香は先に下りようとしたが、優雅に手を掴まれて阻止される。
「え、あの! 真宮さん、待ってください……!」
「待たない」
そのまま手を引かれ、どこかの空き部屋に連れ込まれた。振り返った優雅は微笑んでいるけれど、その表情や声音から、彼が憤っていることが伝わってくる。