甘い香りに引き寄せられて ~正体不明の彼は、会社の××でした~
第六話 惹かれ合う
重厚そうな木製の扉をノックすれば、数秒の間を置いて、入室を許可する声が聞こえてくる。
結香が足を踏み入れれば、優雅は奥にあるデスクに座って何やら作業をしていた。その視線はデスク上に注がれていて、結香の存在にはまだ気づいていない。
「何の用だ? もう退勤していいと言ったはずだ、が……」
顔を上げた優雅の声が、不自然に途切れる。
「失礼します」
「白石さん? どうしてここに……」
「これ、斎藤さんから受け取りました」
結香が香水の入ったボトルを見せれば、優雅は気まずそうな顔で目を逸らす。
「……もう不要なものだよ。捨ててくれ」
「嫌です。絶対に捨てません。だってこれ……私のために、真宮さんが作ってくれたんですよね?」
ボトルに貼られているラベルを見れば、結香の名前が小さくローマ字で書いてあった。それが何よりの証拠だ。
黙り込んでいた優雅だったが、結香から突き刺さる視線に、とうとう観念したらしい。