真夜中の償い

ニューヨークでの出会い

ニューヨークの初秋、セントラルパークの木々は早い物では少し色づき始めているが、まだまだ見ごろには早いようだ。

でも今は暑い夏も終わり歩いていても汗ばむことはなく、気持ちのいい日々だ。

今年は夏が長引いていて暑かったので、少し紅葉も遅くなると言っていた。

そんな事を想いながら、セントラルパークを抜けてほど近いビルの一階の小さなオフィスにたどり着いた鈴木由里(すずきゆり)28歳は内装がやっと終わった自分のオフィスの鍵を開けて中に入った。

そして自分のデスクに座り感慨深い想いに捕らわれていた。

身長162センチ日本人ならそこそこ高めの身長だが、ここはニューヨークいつも地下鉄の混雑時には人に埋もれる由里ではある。

大きな黒い眼はクルクルと良く動き感情をよく表しているが、本人はそうは思っていない。

アメリカ人程鼻は高くはないが、つんと上を向いた鼻は全体に由里の顔を可愛く見せているとがった顎に涙袋のある目は、はかなくて今にも泣きそうな雰囲気があり男心をくすぐる可愛い系の美女だ。

天涯孤独家族を持たない東京の児童養護施設出身の28歳の女性が、ここアメリカの経済の中心地ニューヨークで事業を立ち上げ自分のオフィスを持てたこと、従業員はバイトの大学生が一人のそんな小さな小さな会社ではあるが間違いなく代表者は由里なのだ。

ここまでこれたことが夢のようだ。

ニューヨークに本社を置くSKホールデイングスで大学卒業後就職し、日本支社長の相馬の秘書に抜擢された。

そして、上司の相馬(そうま)の栄転でにニューヨーク本社に移動してきて4年、彼の秘書を勤め上司の定年退職と共に自身も退職し、由里はここニューヨークに残り会社で得た人脈を活かしてフリーのプランナーという仕事を始めることにした。

後ろ盾は何もない。上司の相馬は今日、日本に帰ってしまった。

由里は世話になった相馬の見送りに行って帰ってきたところだ。

少し遠回りをして大好きなセントラルパークを通て歩いてきたのだ。

ここからは全くの一人で事務所を切り盛りしていかなければならないのだ。
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