不完全な私を愛してくれたのは、年上の彼でした
第2話
図書館を出ると、11月の冷たい風が頬を撫でていく。
「すぐそこですので」
篠塚さんが前を歩きながら、振り返って微笑む。
風に舞い上がった黄金色の落ち葉が、くるくると踊りながら空へ昇っていく。
「……着きましたよ」
図書館から歩いて3分。住宅街の路地裏に、その店はひっそりと佇んでいた。
『珈琲と本』
手書きの看板が、秋風に揺れている。
「こんなところにカフェが……」
「ここ、僕のお気に入りの場所なんです」
篠塚さんが扉を開けると、香ばしいコーヒーの香りと、古い紙の匂いが混ざり合った独特の空気が流れ込んできた。
店内には4つだけのテーブル席。壁一面の本棚。照明は暖色で、まるで誰かの書斎に招かれたような親密さがあった。
「いらっしゃいませ」
カウンターから、70代くらいの温厚そうな男性店主が声をかけた。
篠塚さんは、私を窓際の席に案内してくれた。
窓の外には、小さな坪庭が見える。紅葉した木々と、石畳の小道。
「ここ……すごく落ち着きますね」
「でしょう?」
篠塚さんは柔らかく笑って、手書きのメニュー表を見せてくれた。綺麗な文字で、コーヒーの種類と簡単な説明が書かれている。
「コーヒー、お好きですか?」
「あ、はい……普段は、コンビニの缶コーヒーですけど」
「じゃあ、ここのブレンド、試してみてください」
篠塚さんが店主に注文してくれた。