偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

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 グイードに言われるままギルベルトを連れ階下へ。

「ティナ。突然すみません……──おや?」

 ティナを見たユリウスは薔薇が咲いたような笑顔を浮かべたが、すぐにその表情は固まり次第に曇りだした。

「いい時に来たね。紹介するよ。こちら、アイガス帝国で軍を率いてるギルベルト大佐。どうだい?あんたなんかよりもずっと格好だろ?格好いいだけじゃない、すごく頼りになる人だよ。そして、姉さんの想い人さ」
「──んなッ!?」

 自慢気に言い切るグイードの言葉に、いち早く反応したのはティナ。

「ちょっと!!変な事言うの止めてよ!!なんなの!?言葉の暴力!?」

 素早くグイードの腕を引っ張り下がらせると、小声で文句を言いながら詰め寄った。

 確かにギルベルトは初恋の人だった。異性として好きだったし、憧れでもあった。この人と結婚したいと思った時期もあった。だが、いつしかその想いは兄を慕う妹のような感情に変わってしまった。今でもその想いは変わっていない。ギルベルトの方もきっと妹だと思っているはずだ。

「落ち着いてよ。これも作戦だって。自分より優れた者が姉さんの好きな人だって分かったら、気が気じゃないだろ?自分の惨めさに気が付いて身を引くかもしれないじゃないか」
「そ、そういうものなの…?」

 冷静に考えれば、ユリウスが簡単に引くなんてことはないと分かるはずだが、この時は羞恥心と焦りが勝ってグイードの言葉を鵜呑みにしてしまった。

「いいかい。ここでギルベルト兄さんを好きだってアピールしておくんだ。察しのいいギルベルト兄さんならうまくやってくれる」
「いやぁ、いくらなんでもそれは…」

 チラッとギルベルトを見るが、突然の告白に驚いた様子はなく、黙ってユリウスを見ていた。

 流石は大佐。常に冷静沈着で一切の感情を殺している。

 そう、ティナが思う一方で、ギルベルトの内心は穏やかでは無い。
 婚約を白紙に戻す為だと分かっているが、好きな女性に自分が好きだと宣言されれば、喜ばないはずが無い。

 だが、いい男を演じなければならない。

(…くそッ…)

 感情を殺すのは慣れているはずなんだがな…これは中々に酷だな…

 人知れず葛藤しているギルベルトに声をかけたのはユリウスだった。

「久しぶりですね、ギルベルト。…戻ってたんですか?」
「ああ、今しがたな」

 久しぶりに会う旧友を懐かしむように笑みを浮かべるギルベルトだが、ユリウスの方はそんな穏やかな表情ではない。

(この二人、面識があったの!?)

 ティナとグイードはまさかの事態に驚くが、口を挟める状況ではない。

「ティナの婚約者ってのはお前か?」
「ええ。そうです。()()()()ここまで来れました」

 問いかけられると、勝ち誇った様な笑みを浮かべて言い返している。ギルベルトは眉間に皺を寄せ、難しい表情を浮かべていたが「そういう事か」と納得したように呟いた。

「お前がティナの婚約者だと言うことは分かった。だが、ティナの気持ちを無視して突っ走るのは良くないな」

 諭すように声をかける。

「なんとでも言ってください。既に婚約は成立しています。部外者が口を出さないで頂きたい」
「そうはいかん」

 強い口調で睨みつけるが、ギルベルトは焦る様子もなく横にいたティナの手を引き、自分の腕の中に引き入れた。

「俺もこいつに気があると言ったらどうする?」
「「ッ!?」」

 挑発するようにティナの手を取り、口付けをするギルベルト。当然、驚いたのはユリウスだけでは無い。

(な、なななななな…!!)

 ティナは熟れた林檎のように全身を真っ赤に染め、声にならない声を出しながら震えている。

(お、落ち着け…これは演技…本気にするなティナ…!!)

 息をするのを忘れそうになり、必死に自分に言い聞かせた。──が、逞しい腕に抱きしめられたままでは落ち着くものも落ち着かない。

(心臓が持たない…!!)

 きっとギルベルトには心臓の鼓動が伝わってるはず……けど、どうすることも出来ない。ティナは両手で顔を覆って隠すのが精一杯。

「……今すぐティナを放してください。いくら貴方でも容赦しませんよ?」

 突き刺すような殺気を向けながら、腰につけている剣に手が伸びる。

「お前な…時と場所を考えろ。ここで暴れたらティナに迷惑がかかるんだぞ?」

 諭すと言うよりは、呆れたようにユリウスの手を止めた。止められたユリウスは歯を食いしばり悔しそう顔を歪ませ、ギルベルトを睨みつけている。

 ユリウスのこんな余裕のない表情を見るのは初めての事でティナは困惑していたが、グイードの方はそれはそれは愉快だと言わんばかりに、だらしなく顔を緩めている。

 中々にカオスな状況にティナはどうしていいのか分からず、額に汗を滲ませていた。
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