偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

7

 ティナは机に肘を置き、頭を抱えていた。原因はテーブルに置かれた一枚の招待状。

 事の始まりは数分前─…

「おじょ~さん」

 のんびりと本を読みながら、優雅にお茶を飲んでいた所にゼノが顔を出してきた。
 至福のひとときが一瞬にして崩れた事で、ティナの顔はあからさまに曇りだした。

「そんな嫌な顔しないでよぉ。俺だって仕事なんだからさぁ」
「仕事って言ってる割には、毎晩のように飲み歩いてるようだけど?」

 ジロっと睨みつけながら言う。
 ゼノは毎晩、夜の街に出向いては朝日と共に帰ってくる。酒の臭いと香水の匂いを全身に纏わせて…
 この間なんか、目の着くところに紅い口付けの痕(キスマーク)を付けていた。

 誰とどう遊ぼうが関係ないし興味もないが、節度は守って欲しい。

「…あんた、いつか絶対呪い殺されると思うわよ?」
「心配してくれるの?」
「呆れてるの」
「えぇ?そんな事言わないでよ」

 相変わらず掴みどころの分からない男だと思いながら、なんの用か訊ねた。

「ああ、そうそう。これ、お届け物」

 そう言いながら差し出してきたのは一枚の封筒。眩いぐらい真っ白な封筒に、目を引く真っ赤な封蝋。端には流麗な字でユリウスの名が記されてある。

 開ける前から嫌な予感しかしない。

「受け取り拒否で」
「それは勘弁してよ。お使いも出来ないと思われるでしょ?」

 封筒を突き返すが、ゼノとしても持ち帰る訳には行かない。

「お使い出来なくて上等じゃない。そのままお役御免になりなさいよ」
「酷い!!こう見えて俺、結構優秀な人材よ?」
「……………」
「無言で否定するのはやめて」

 押し問答を繰り返すがお互いに引かず、痺れを切らしたゼノが「分かった」と言いながら手を離した。

「そこまで言うんなら、直接旦那に手渡してもらおう」

 とんでも発言にティナの手も止まった。

「俺から渡されるのが嫌なんでしょ?なら、本人に頼むしかないじゃない?」

 そういう事じゃないと分かった上でわざと言っている。

 ゼノは睨みつけるティナを嘲笑うように、ニヤッと笑みを浮かべた。

「んじゃ、まあ、善は急げって事で…行こうか?」
「は!?え、ちょ─!!」

 ゼノは素早くティナを抱き抱えると、足元に魔法陣を出現させた。こうなると、流石のティナも焦り出す。

「ちょっと!!何してんの!?離しなさいよ!!」
「ん~?聞こえないなぁ?」
「耳元で叫んでるのに聞こえない訳ないだろ!!」

 必死にじたばたするが、がっしり掴まれて離れる事が出来ない。そうこうしてる内に足元が光りだした。ゼノは鼻歌混じりで余裕の表情。

「~~~~~ッ、分かったわよ!!受け取ればいいんでしょ!!」

 ティナは勝ち目がない事が分かり、即座に白旗を挙げた。その瞬間、魔法陣は消え、嫌味ったらしい笑顔のゼノから解放された。

「はい。これね」

 その場に項垂れているティナの目の前に、封筒が差し出された。恨めしく睨みつけるが、気にする素振りはまったくない。

 嫌々受けると、封を開けた。

「…………」

 中には一枚の招待状が入っていた。それは、年に一度行われる騎士らによる公開試合の招待状。

 この公開試合は身分に制限がなく、誰でも見ることができる。騎士達が剣を振るう姿なんて、滅多に見る事が出来ないので、毎年大いに盛り上がっている。
 なんでも、前日から並んでいる強者もいると耳にするほど。王都で一番盛り上がる祭りと言っても過言ではない。

 そんな公開試合(祭り)の招待状……しかも一等席。この席は親族や身内など親しい者にしか配られない。

 そんなものを持っているなど知られたら…考えるだけで恐ろしい。

「あ、因みに当日は俺が迎えに来るからね。分かってると思うけど、逃げるのは無駄だと思った方がいいよ?」

 とどめの一言を言い放ち、ゼノは窓から出て行ってしまった。

 そして、冒頭へ戻る訳だが……

「はぁぁぁぁぁ~……」

 もはや溜息しか出なかった。
< 7 / 41 >

この作品をシェア

pagetop