悪女な私は身を引きますので、どうぞお幸せに
プロローグ
プロローグ


 華やかなパーティー会場のなか。すっかり壁の花となっていた神室志桜の視点は、ある一点でぴたりと止まった。盗み見るようなマネをしたいわけではないのに、目をそらせない。
 志桜の見つめる先にいるのは、ライラック色のロマンティックなドレスに身を包む若い女性と艶やかなブラックのスリーピースがよく似合う長身の男性。

(あれは……恋が始まる瞬間ってやつなのかしら)

 夏が去り、ようやく秋の気配が濃厚になってきた十月初頭。
 ここ、日比谷にある外資系ホテルの最上階、スカイバンケットルームでは人気アパレルブランド『メイホリック』のレセプションパーティーが開かれていた。
 きっとメイホリックのブランドロゴに合わせたのだろう。シャンパンゴールドをアクセントカラーにした会場装飾は華やかで洗練されている。中央の長テーブルにはおいしそうなオードブルがずらりと並び、提供されるシャンパンやワインはかなり上等なもの。カジュアルな立食パーティーではありつつも、デザイナーズブランドであるメイホリックの高級感はしっかりと保たれている。
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